機関誌「非破壊検査」バックナンバー 2020年12月度

巻頭言

「二次元検出器を用いた新しいX線応力測定・材料評価技術」 特集号刊行にあたって
佐々木敏彦

 このたび,X 線応力測定法の新しい技術の一つ「cosα 法」について特集記事を掲載する機会を得る運びとなりました。この特集を機に,より多くの皆様方に関心を持っていただき,また,より多くの分野で有効利用していただけるようになることを願っております。
 まず最初に,本技術の特長や利用法について簡単にご紹介しておきたいと思います。X 線応力測定法の特長は,一般に,残留応力が非破壊,非接触,局部的に測定できることと言われています。また,X線回折現象を利用して結晶格子の間隔を通してひずみを求める方法であるため,測定原理が比較的明確である点も特長の一つです。
 今回特集するcosα 法は,以上の性質をこれまでと同様に保持しつつ,それらに加えて測定時間を従来に比べてほぼ1/10 に短縮することを可能にします。また,装置の大きさや重量も今までの約1/10以下に小型軽量化可能で,可搬性が向上しました。そのため,屋外や製造ラインでの使用がしやすくなり,将来的には全数検査が可能になっていくことが期待されます。また,マッピング測定が増えていくことも予想されます。さらに,応力だけではなく,測定される回折環を利用することで結晶状態や材質に関する評価も進むものと考えられます。加えて,一度に得られるX 線データの量が従来に比べて数十倍多いため,応力以外も含めた新たな材料評価法の創出もなされていく可能性があるように思われます。
 以上の可能性が発現できる背景は,二次元X 線検出器技術と新測定原理の融合にあると言えます。この点に関する詳細については,この後に続く各特集号記事の解説に譲りたいと思います。なお,もう一点特筆すべき点は,本技術のハード面,ソフト面の主要部分が共に我が国で誕生したものであることです。また,現時点でのcosα 法の専用装置はすべて日本製であり,海外製品はまだ皆無です。cosα法の基礎研究に関しても,我が国がこれまで世界をリードしてきていると言えます。
 X 線応力測定法は,現在,世界中で利用されている技術ですが,元々は約100 年前にドイツとアメリカで研究が始まり,50 年程前に現在の姿に発展してきたもので,比較的古い歴史のある技術です。そうした技術が,今,大きく変貌しようとしつつあると言えます。
 本特集では,2014 年に(一社)日本非破壊検査協会においてスタートしたcosα 法の研究会(正式名称,現場指向X 線残留応力測定法研究委員会)のメンバーを中心に,装置メーカ,ユーザ,検査企業,そして,大学や研究機関でなされてきた研究成果や適用例についてご紹介します。
 最後に,冒頭でも述べましたが,非破壊検査や材料強度に関わる多くの技術者や研究者の皆様が,これを機に,本技術にご関心を持たれ,ご利用されることを祈念して巻頭の言葉とさせていただきます。

 

解説

二次元検出器を用いた新しいX線応力測定・材料評価技術

cosα法を用いたX 線応力測定の手順と測定理論
金沢大学 佐々木敏彦

Procedure and Measurement Theory of X-ray Stress Measurement
Using cosα Method

Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:X 線応力測定法,cosα 法,回折環,残留応力,測定理論,三軸応力

はじめに
 cosα 法1)−3)は,X 線応力測定法の一種であり,測定サンプルから発生する1 つの回折環の情報を利用して応力を決定することができる。従来のX 線応力測定(sin2ψ 法)4)では,事実上,X 線入射角が異なる7 個(以上)の回折環を発生させる必要があり,cosα 法と比べると測定時間の増加,装置の構造の複雑さ・大型化を招いていた。また,回折環の一部しか使用しないため,回折X 線の情報を有効に活用できない欠点もあった。
 本稿では,以上の問題点を解決し得るcosα 法について概説する。まず,cosα 法によるX 線応力測定の手順と共に,測定サンプルから発生する回折環からひずみや応力を求めるための理論的背景について概説する。測定理論に関しては,平面応力状態の場合と共に,三軸応力状態の場合についても述べる。なお,以下では,鋼の応力測定の場合を主な対象として説明する。

 

2D 法およびcosα法によるX 線応力測定の基礎理論とその違い
岩手医科大学 江尻正一,東洋電機製造(株)大場宏明,金沢大学 佐々木敏彦

Fundamental Theory for X-ray Stress Measurements by 2D
and cosα Method and the Contrast

Iwate Medical University Shoichi EJIRI
Toyo Electric Mfg. Co., Ltd. Hiroaki OHBA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:非破壊検査,強度評価,X線応力測定法,二次元検出器,cosα 法

はじめに
 X 線応力測定法は,1925 年のLester とAborn によるX 線回折法によるひずみ測定1)と1930 年のSachs とWeerts による応力測定の示唆2)そして1934 年のGlocker とOsswald によるsin2ψ の線形性を利用した応力測定3)を端緒として,開発が進み,1960 年までにsin2ψ 法と呼ばれる測定法がほぼ確立した。日本でも1966 年に日本材料学会編「X 線応力測定法」4)が発刊されて以来,現在もsin2ψ 法はX 線応力測定法5)の主力である。しかしながら,sin2ψ 法とは異なる二次元検出器を用いた測定法,1995 年に佐々木,広瀬によるイメージングプレートを用いたcosα 法6),1997 年にHe による重回帰分析を採り入れた応力解析法(2D 法と称する)7),そして2014年に宮崎と佐々木によるフーリエ解析法8)が提唱され,現在,それらの測定法に基づく新しいX 線応力測定装置の使用が急速に広がっている。
 本稿では,二次元検出器を用いたX 線応力測定法である2D法,cosα 法,そしてフーリエ解析法の基礎理論について統一的に紹介し,その違いについて解説を行う。ただし,統一的表現のため,α 角などの定義が原論文と異なる。

 

ポータブル型X 線残留応力測定装置の活用事例
パルステック工業(株)内山宗久、丸山洋一

Example of Use of Portable X-ray Residual Stress Measuring Device
PULSTEC industrial Co., Ltd. Munehisa UCHIYAMA and Yoichi MARUYAMA

キーワード:非破壊検査,残留応力,X線応力測定法,残留オーステナイト,熱処理

はじめに
 一般的な金属部品や機械構造物などの製造工程では,様々な加工や熱処理,表面処理が行われており,その際に引張や圧縮といった残留応力が生じる。特に引張の残留応力は製品の強度・耐久性などに悪影響を及ぼす場合があり,破断などの原因となる。
 事故やトラブルを未然に防ぐためには,大きな力が作用する箇所や形状変化が起きやすい箇所などを中心に,残留応力の大きさや作用する方向,分布状況,経時変化などを正確に把握する必要がある。
 自動車業界では,軽量化と高強度化等の技術発展の中,残留応力測定にも注目が集まっている。また,大型構造物(橋梁や化学プラントなど)の長寿命化やメンテナンスにおいても,残留応力を活用する動きが見られるようになってきた。
 橋梁等の現場での疲労き裂の点検,調査は近接目視での調査を基本とし,発見されたき裂部の表面の磁粉探傷試験(MT),表面で見えない部分については超音波探傷試験(UT),渦電流探傷試験(ET),アコースティック・エミッション(AE)等の測定が実施されている。しかしいずれも発生したき裂長さを定量化する装置となる。
 X 線による残留応力測定は結晶のひずみを計測できることからき裂発生の前段階で問題を検出できる可能性がある。問題を容易に検知できるようになれば,品質管理や安全対策,予防保全に大きく貢献することができる.
 本稿は,ポータブル型X 線残留応力測定装置の測定原理と一部の活用事例を紹介する。

 

二次元検出器を用いたX 線応力測定装置とその特長について
(株)リガク 菊地拓哉

Introduction and Features of X-ray Stress Measurement System Equipped
with Two-dimensional Detector

Rigaku Corporation Takuya KIKUCHI

キーワード:X 線応力測定,二次元検出器, X線回折,残留応力,ひずみ

はじめに
 X 線応力測定法は,材料表面に存在する残留応力を非破壊で評価する手法である。X 線応力測定法の中でもsin2ψ 法1)と呼ばれる手法は,世界で最も普及されている手法の一つであり,研究機関や産業界で標準的に広く使用されている。
 sin2ψ 法を採用したX 線応力測定装置はゼロ次元検出器,一次元検出器を利用した装置が多い。ここで,ゼロ次元検出器というのは検出器を走査することでX 線回折現象によって観測される回折強度曲線の強度データを回折角度ごとに計測する検出器である。いわゆる,点で強度データを取得する検出器である。一方,一次元検出器は検出器自体が強度の計測とその計測している強度の位置を判定することができることから一度の計測で広い回折角度範囲の強度データを取得することができる。いわゆる,線で強度データを取得する検出器である。ゼロ次元検出器から一次元検出器へと検出器の進歩によって,測定時間は大幅に短縮され,さらには高感度の半導体検出器の開発により,より迅速な測定が可能となった。
 近年,二次元検出器を用いた応力測定法が注目を集めている。二次元検出器を用いたX 線応力測定法は,デバイ環の二次元データを一度に利用することからより迅速な測定が行え,より多くの情報が得られ,精度の高い測定も行えるようになった。
 本稿では,二次元検出器を搭載したX 線応力測定装置の紹介とその特長について解説する。

 

生産ラインで利用できるX 線残留応力測定器
新東工業(株)小林祐次、青木 貫

X-ray Stress Measurement Device that can be Operated in the Production Line
SINTOKOGIO, LTD. Yuji KOBAYASHI and Kan AOKI

キーワード:残留応力,X線応力測定,全数検査

はじめに
 近年の自動車の歯車は高トルク化や小型化に対応するために歯元疲労強度が求められ,疲労強度の向上を目的にショットピーニング(以下,SP)による残留応力の導入が行われる。さらに,疲労強度の向上には,大きな圧縮残留応力と深い残留応力分布が必要とされている。そのため,加工後の残留応力分布を理解することは重要である。一般的に残留応力の非破壊検査としては,X 線応力測定法が用いられる。X 線応力測定法のうちsin2ψ 法は研究事例も多く,現場技術として広く定着している。 sin2ψ 法は測定手法上,数点の照射角度を精密に変化させるゴニオメータが必要なため,装置サイズは大きく,測定時間は10 分から15 分程度を有する。そのため,SP 工程での製品検査は抜き取り検査が一般的である。
 近年,品質管理の質の向上がより一層求められ,SP による残留応力値が製作図で指定される事例がある。製作図に,残留応力値が指定された場合,残留応力値は製品全品を測定する必要があると考える。そこで当社では,残留応力を,製造現場の環境下でサイクルタイム内に全品測定ができるX 線残留応力測定装置(以下,開発装置)を開発した。本稿では,その特長を紹介する。

 

ディーゼル機関向け一体型クランク軸に対するcosα法による自動X線評価システム
(株)神戸製鋼所 松田真理子、高枩弘行,金沢大学 佐々木敏彦

Automatic X-ray Evaluation System by the cosα Method for the Solid Type
Crankshafts of Diesel Engines

Kobe Steel, Ltd. Mariko MATSUDA and Hiroyuki TAKAMATSU
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:X 線自動評価システム,cosα 法,ディーゼル機関,一体型クランク軸,表面処理,残留応力

はじめに
 近年,地球環境問題に対する取り組みが活発化する中で,船舶および発電用中型ディーゼルエンジン向け大型鍛鋼品の一体型クランク軸においても,エンジンの高効率化および高出力化の目的で,高疲労強度化が従来にも増して求められている。鋼の材料としての高強度化は,ギガサイクル疲労1)等の要因で限界が見え始めており,さらなる高疲労強度化技術として注目されているのが表面処理技術である。一般的に表面処理技術は,表面処理部に疲労強度を向上させる圧縮残留応力を付与する一方で,表面処理部と未処理部の境界に疲労強度を低下させる引張残留応力を生じさせる。このため表面処理を施す部品を設計する際には,表面処理部周辺の残留応力分布を把握することが重要である。しかし,従来のsin2ψ法によるX 線応力測定法は装置が大型で,測定に必要なスペースも大きく,一体型クランク軸のフィレット部のような狭隘部に対しては測定が難しかった。この課題を解決したのが,cosα 法のX 線応力測定技術2)−4)である。
 同技術を一体型クランク軸のフィレット部の残留応力測定に適用する場合,大型鍛造品特有のマクロ偏析や,フィレット部における凹曲面内部へのプロービングが測定値に及ぼす影響について検討する必要があった。本稿では,上記検討を通して測定精度を確保するための測定条件を明らかにした上で,これを一体型クランク軸のフィレット部の測定に適用した自動X 線評価システムについて述べる。

 

X 線回折環分析装置を使った転動疲労の評価事例
NTN(株)藤田 工、嘉村直哉、長谷川直哉,金沢大学 佐々木敏彦

Evaluation Examples of Rolling Contact Fatigue by Using X-ray Diffraction
Ring Analyzer

NTN Corporation Takumi FUJITA, Naoya KAMURA and Naoya HASEGAWA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:X線応力測定法,強度評価,判定基準,疲労破壊,残留応力

はじめに
 転がり軸受では,材料の組織変化と残留応力の生成を伴う転動疲労が接触応力の繰り返しによって進行する。そのため,転動疲労は,材料の組織変化と残留応力の変化を検出できるX 線応力測定装置により評価されてきた1)−3)。近年,二次元検出器方式のX 線応力測定装置(以下,回折環分析装置)が開発され,転動疲労の評価に用いられている4)− 12)。本稿では,回折環分析装置を用いた最近の転動疲労の評価事例について紹介する。

 

懸架ばねにおけるX 線残留応力測定cosα法の有効性
三菱製鋼(株)山崎智裕

Effectiveness of X-ray Residual Stress Measurement cosα Method
in Suspension Springs

Mitsubishi Steel MFG. Co., Ltd. Tomohiro YAMAZAKI

キーワード:懸架ばね,ばね鋼,ショットピーニング,残留応力,三軸応力

はじめに
 人や物を運び,生活に必要不可欠な車(自動車・トラック等)は,環境配慮の背景から年々燃費向上に対する要求が高まっている。車体重量を支え,走行中に路面からの衝撃を緩和し,乗り心地の向上や走行性を安定させる役割をもつ懸架ばねにおいても軽量化の要求が年々高まっている。懸架ばねの軽量化技術の一つとして,ショットピーニング(以下SP)工法がある。SP は,大小任意の鋼球もしくは非鉄材を高速でばねに打ち付けることで,表面に圧縮の残留応力を付与する工法であり,走行中にばねに発生する応力を緩和し,ばねの寿命を大幅に向上させる効果がある。図1 に代表的な懸架ばねを示す。(a)のように板状のばねを重ねて用いるリーフスプリングや(b)のように主に丸棒材をらせん状に巻いて用いるコイルスプリングなど,車によってばねの大きさや形状が異なる。そのため,各々に適したSP を施すことが重要となる。
 SP によってばねに付与される圧縮の残留応力の測定には,X 線による残留応力測定法である2θ -sin2ψ 法(以下sin2ψ 法)が広く用いられている。sin2ψ 法は1973 年頃から装置が市販され,今日まで残留応力測定に幅広く用いられてきた。ばね業界においても,2012 年に日本ばね学会の委員会活動による調査で,ばねメーカ,材料メーカ,カーメーカなどを対象にアンケートを実施したところ,回答が得られた37 機関の内,80%がsin2ψ 法を用いていることが報告されている1)。sin2ψ法は,結晶格子によって回折するX 線を利用し,格子面間隔の変化量を入射X 線の角度を変化させて検出する方法である。一回の入射X 線で回折した回折環上の360 度のX 線の内,一方向のみを検出するため,応力解析には複数の入射X 線が必要となる。そのため,一回の測定時間に10 分程度を要する。また,高精度な制御が必要であり,装置の大型化や測定品のサイズ制限といった制約が生じる。
 近年,cosα 法と呼ばれるX 線応力測定方法が注目されており,この測定方法は,sin2ψ 法とX 線の発生・回折原理は同一であるが,回折X 線の検出方法を二次元検出器にすることで,回折環全周を取得でき,sin2ψ 法のように複数入射を必要とせず応力測定が可能である。これにより,装置の高精度化が必要なくなり,装置の小型化および一回の測定時間が約1分の高速測定を可能とした。また,回折X 線を全周測定可能であるため,応力測定のみならず,結晶配向などの判別にも用いられている。
 ばねにおけるSP の研究は数多く報告されている。その中でも,X 線による残留応力測定の研究が榊原らによって報告されている2)。測定面の法線方向からある角度をつけてSP 処理をすることで2θ -sin2ψ 線図の関係が非線形性となるψ スプリット現象が生じることが報告されている。X 線応力測定は,X線の侵入深さが数μm ~数十μm であることから平面応力状態を仮定しているが,投射角度をつけてSP を行うことで,X線侵入深さ領域に面外せん断応力が付与され,2θ -sin2ψ 線図が非線形となりψ スプリットが確認される。この場合,三軸応力解析が必要となり,榊原らはDölle-Hauk 法を用いて検証を行った。この手法は,sin2ψ 法で六方向からの測定データを必要とすることから,1ヵ所の応力を求めるのにおよそ60分の測定時間を要し,測定箇所の多い場合や広範囲の測定を行うには不向きである。
 1995 年に佐々木らによってcosα 法を用いた三軸応力解析の手法が提案された。イメージングプレートによる二次元検出器を用いて正負のψ 角方向から測定するX 線三軸応力解析第一法が提案され3),さらに2009 年には第一法のσ y 方向の測定精度を改善した第二法及び三方向の測定から算出される第三法が提案された4)。cos α法は一回の測定に要する時間が約1 分という特長を持っており,sin2ψ 法におけるDölle-Hauk 法よりも約20 倍も効率よく三軸応力測定が可能となった。また,2018 年には田中によって,cosα 法を用いて機械加工面の三軸応力測定の適用が報告され5),三軸応力成分を持つ測定品に対し,佐々木らが提案したcosα 法の三軸応力解析が工業製品の残留応力測定に有効であることが報告された。
 本稿では,SP 処理したばね鋼において,cosα 法で残留応力測定した一例を紹介する。

 

歯車のX 線残留応力評価へのcosα法およびフーリエ解析法の適用
東洋電機製造(株) 大場 宏明  金沢大学 佐々木敏彦

Application of cosα Method and Fourier Analysis Method
for X-ray Residual Stress Evaluation of Gears

Toyo Electric Mfg. Co., Ltd. Hiroaki OHBA
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

キーワード:X線応力測定法,歯車,材料評価,cosα 法,フーリエ解析法

はじめに
 鉄道車両に用いられる機械構造用材料には,一般の構造材に用いられる材料よりも信頼性の高い材料が要求され,特に歯車材料は設計強度(歯元曲げ強さ,面圧強さ)の面では長期間使用するため疲れ強さが重要な要求特性とされる。大歯車には炭素鋼S40C(高周波焼入れ),小歯車には合金鋼SNCM420(浸炭焼入れ)が用いられ,歯面および歯元の疲れ強さ向上を目的に表面硬化熱処理が行われ,歯面の最終仕上げは研削加工が施されている。従って,歯車の表面硬化層の厚さ,硬さおよび全体の熱変形等に留意すると共に歯面および歯元のX 線残留応力測定によって熱処理および研削加工状態の評価が必要となっている。

 

土木構造物に多用される鉄筋コンクリート造内の鉄筋への応力測定
東京電力ホールディングス(株)岡 滋晃、斉藤 仁
東京電力パワーグリッド(株)嘉賀大樹、吉本正浩
東電設計(株)阿南健一、本田 中

Measuring the Stress of a Reinforcing Bar in Reinforced Concrete Structure
in the Civil Engineering Field

Tokyo Electric Power Company Holdings, Inc. Shigeaki OKA and Jin SAITO
TEPCO Power Grid, Inc. Daiki KAGA and Masahiro YOSHIMOTO
Tokyo Electric Power Services Co., Ltd. Ken-ichi ANAN and Ataru HONDA

キーワード:鉄筋,応力測定,電解研磨,粒界浸食

はじめに
 一般に,図1 に示すような土木構造物に多用される鉄筋コンクリート構造物中における鉄筋の応力を測定する方法として,鉄筋切断法1)が使用される。しかし,鉄筋切断法は鉄筋を破壊して測定するため,構造物そのものに負担がかかり検査方法としては好ましくない。一方,測定対象物を破壊しない非破壊検査法としてX 線を用いて応力を測定する方法(以下,X 線応力測定法と称する)がある2)−4)。X 線応力測定法は,主に自動車鋼板など比較的結晶状況が良好な鋼材の応力の測定に使用されてきたたとえば5)。そこで,構造物への負担を軽減する方法として,X 線応力測定法を鉄筋における応力の測定に利用することが考えられる。
 しかし,土木構造物用の鉄筋は自動車鋼板と異なり,結晶状況に精度を必要としていない。X 線応力測定法による測定値は測定面の結晶状況に大きく影響されることから,土木構造物の鉄筋などの鋼材にも適用できるか,確認する必要がある。
 そこで今回,載荷状態にある鉄筋に対して,パルステック工業(株)製「μ-X360s ポータブル型X 線残留応力測定装置」(以下,「X 線測定器」と称する)を用いて角度揺動法を用いたX線応力測定法の実験を行い,その測定結果を考察した。これにより,X 線応力測定法により鉄筋の応力を測定できるか検討を行った。

 

計測会社から見たcosα法の特徴と普及
(株)X 線残留応力測定センター 三島由久

Cosα Method, its Features and Diffusion from Measurement
Company’s Perspective

X-ray Residual Stress Measurement Center Yoshihisa MISHIMA

キーワード:X線応力測定,cosα 法,sin2ψ 法,応力測定試験,応力解析,残留応力

はじめに
 2015 年にX線応力測定の普及を目指して会社を設立しました。当社が採用したcosα 法の特徴と普及について計測会社の視点から解説したいと思います。
 計測会社に依頼されるお客様が純粋に応力値を知りたいことは稀です。本来は,製品の寿命を予測したい,破壊や変形の原因を知りたい,つまり課題や問題の解決をしたくて,その指標として応力が使えないかと考えている場合がほとんどです。それに対して計測会社は,実際に応力を測定してお客様の仮説を検証するわけです。その際に重要なことは,以下の通りです。
 第1に物理的に測定可能なこと。対象物の決められた位置にX 線を照射してその回折環をセンサで捕捉できるのが第1条件です。できれば測定と設置が容易なこと。特に現場測定等では,多くの時間を設置に費やします。
 第2に精度維持が容易なこと。特に調整等をしなくても精度が保たれること。毎日装置の検査を行う計測会社にはありがたい特徴です。
 第3に測定のロバスト性。特に現場での測定は,測定範囲に対して正確に垂直または,一定の角度に設置する等が難しい場合があります。少しアライメントがずれただけで測定値が大きく変わるような神経質な機器や方式は採用が難しくなります。正確にアライメントが取れなくても値が大きく変わらないことが重要です。
 第4に経済的であること。機器費用が高く測定に長い時間が必要だと測定費用が高額になり,多くの需要が望めません。検査や計測の世界では販売価格より検査費用が高く検査を断念することがしばしばあります。
 第5 に精度の評価ができること。高い精度があるに越したことはありませんが,高い精度で測定できない場合もあります。その場合は,お客様の仮説の検証や判断を評価するのに足りる精度があるかが重要になります。例えば製造条件A と製品条件B の優劣をつけたい場合には,大小関係が判別できればいいので,分解能がAB の測定値差より小さければAB の優劣をつけることが可能です。一方で精密部品の変形は,原因の推定のために数MPa 以下の測定精度を要求される場合があります。このように測定値の誤差を評価して,精度要求に応えられるか,判断できるかが重要な要件になります。
 以上の観点から,cosα 法の特徴を述べたいと思います。測定では,X 線のプロファイルや回折環からの情報も得られますので併せて記述します。

 

各種の鋼材に対するcosα法の適用例
金沢大学 佐々木敏彦,千葉職業能力開発促進センター 幸田 啓

Application Example of cosα Method for Various Steels
Kanazawa University Toshihiko SASAKI

Chiba Human Resources Development Promotion Center Kei KOHDA

キーワード:X 線応力測定法,cosα法,鋼,回析環,マッピング,四点曲げ

はじめに
 鋼材に対するcosα 法1)−3)による測定値の検証のため,四点曲げ試験を実施し,cosα 法による応力とひずみゲージ値から得られた応力とを比較した4)。このような測定を,試験片の中央部分を中心とした合計9 点について実施し,測定位置による影響についても検討した。また,無負荷状態において,試験片の中央部分の長さ方向40 mm,幅8 mm の範囲に対してcosα 法による残留応力(σ x)のマッピング測定を行い,測定面上における測定値の変動状況についても検討した。

 

     
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