機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2007年7月度

巻頭言

住宅の耐震化のすすめ 岡田 恒男  (財)日本建築防災協会

 Promotion of Upgrade of Seismic Capacities of Houses
Tsuneo OKADA Japan Building Disaster Prevention Association
キーワード 住宅,耐震化,耐震設計,耐震診断,耐震改修,応急危険度判定


 

1. まえがき
 地震活動度が世界で最も活発な地域に属する地震国日本においては,住宅の耐震化は喫緊の課題である。1923年の関東大震災の翌年に世界に先駆けて耐震 設計法を国の基準としたわが国の地震対策は,世界的に見ても最高のレベルにあるが,それでも大地震のたびに被害が生じている。例えば,今年3月25日に発 生した能登半島地震においても,500棟近い住家が全壊し,地震直後の避難者数は3,000人近くに達し,2週間が経過した現在でも500人近い被災者が 避難所暮らしである。
 後に,各論でそれぞれ詳細に述べられると思うが,住宅の地震対策の要点は,1)地震に弱い住宅は作らない(新築住宅の耐震化),2)作ってしまった住宅 については耐震診断を行ない,必要に応じて耐震補強する(既存住宅の耐震化),3)地震被害を受けた住宅は,避難が必要か否かをすばやく判定し応急対策を 施し,ややあって,復旧が可能であるか否かを判定し,可能な場合には耐震補強を含めた復旧工事を行なう(被災住宅の耐震化)の3点である。

2. 新築住宅の耐震化
 一般的にわが国では,耐震基準が強化された1981年以降の住宅の耐震安全性はそれ以前に比べて大幅に向上している。1995年阪神・淡路大震災での事 例の分析からも明らかである。ただし,1981年の耐震基準が要求している耐震安全性のレベルは,国の定める最低基準として,大地震に対して建物の骨組み の倒壊に対する安全性を確認するものであって,損傷を防ぐことを保障はしていない。この点を考慮して,2000年には,耐震基準の見直しが行なわ れ,1981年基準については若干の手直しを行なうと同時に,これに加えて,損傷を防止する設計のルートも新設された。従って,新しく建設されている住宅 の倒壊に対する安全性はかなり高いものと考えてよい。なお,一昨年,構造計算書の偽造事件が発覚し社会的に注目を浴びているが,この点に関しては,再発防 止のために建築基準法等関連法令の改正,ならびに,各種の支援策がとられている段階である。また,建築士等の倫理ならびに技術向上のための種々の方策が関 連職能団体等で進められている。

*(財)日本建築防災協会(105-0001 東京都港区虎ノ門2-3-20 虎ノ門YHKビル8階)理事長
東京大学生産技術研究所教授 所長、芝浦工業大学工学部教授を経て現職。(財)日本建築センター建築技術研究所所長を兼務。日本建築学会会長、日本地震工学会会長
などを歴任。専門は、耐震工学、建築地震防災学。  http://www.kenchiku-bosai.or.jp

 

解説 住宅の安全・安心の確保 その1:耐震構造住宅建設のために

地震対策の基礎知識  中埜 良昭 東京大学生産技術研究所

Seismic Design of Buildings in Japan
Yoshiaki NAKANO Institute of Industrial Science, The University of Tokyo

キーワード 地震被害,耐震設計,免震構造,制振構造

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1. はじめに
 わが国は言わずと知れた世界有数の地震国であり,建物を設計する際に現在用いられている耐震規定は,世界的に見ても極めて厳しい規定であるが,これは過 去の地震被害から得られた教訓やそこで明らかとなった問題点を克服すべく実施された研究の成果や開発された技術などが反映されて,今日の姿へと進化してき たといって良い。
 本稿ではわが国における過去の地震被害と耐震設計法の変遷や既存建物の耐震補強技術,免震構造や制振構造などの最近の建設技術について,主として技術的な側面から紹介したい。

2. 地震被害と耐震化技術の変遷

日本の耐震規定の変遷は,諸外国と同様,地震被害と密接な関係がある。表1は近年の代表的な被害地震と耐震規定の関係を示したものであるが,この年表に沿って耐震規定の変遷を簡単に振り返ってみたい。
 近代日本における地震工学の研究が本格的にスタートしたのは,今から120年ほど前の1891年濃尾地震以降のことである。濃尾地震は日本の内陸部でそ れまでに起こった最大級の地震であり,図1に示すような上下6m,水平2mにもなる根尾谷断層(岐阜県)1)が地表面に現れ(断層の総延長距離は福井県南 部から愛知県犬山東方までの約80km),断層による地盤面の食い違い跡は現在でも確認できるほどである。濃尾震誌2)によると「轟然一聲百雷の頭上に堕 落せしと思ふ間もなく劇烈なる震動を起し瓦飛び屋倒れ地裂け井溢れ瞬時にして全世界も滅絶すべき勢ひを現せり」とそのすさまじさが記されている。この地震 による災害をきっかけに,わが国では耐震構造の調査・研究が進められるようになり,木造建物の構法面での改良やその後の鉄骨造・鉄筋コンクリート造の導入 へとつながってゆく。ちょうど,文明開化とともに欧米の技術を積極的に導入していた時期でもあり,またサンフランシスコ大地震(1906年)の被害を視察 した佐野利器博士(当時東京帝国大学助教授)が,鉄筋コンクリート造の優れた耐震・耐火性能を論じていたのもこの頃である。

 

 

 

 

木造住宅  大橋 好光 武蔵工業大学工学部

Wooden Houses
Yoshimitsu OHASHI Musashi Institute of Technology


キーワード 木造住宅,耐震診断,耐震補強,リフォーム



1. はじめに
 日本の木造住宅には,大きく分けて4つの構法がある。?軸組構法,?ツーバイフォー構法,?木質プレハブ構法,?丸太組構法,である。軸組構法が大部分 を占め,ツーバイフォー構法,木質プレハブ構法,丸太組構法の順に小さくなる。ここでは,主要な構法である木造軸組構法を中心に解説する。

2. 耐震の構造
2.1 軸組構法住宅の耐震性の考え方
 木造軸組構法住宅は,柱と梁・桁などの横架材とで軸組が構成されている。柱は,建物の鉛直荷重に比べ数が多いが,荷重は一部の柱に集中する傾向がある。 一方,梁や桁などの横架材は,スパンに応じて断面を決定しているが,一般に,大きなスパンの断面は,曲げ強度よりはたわみで決定されている。
 また,接合部は,以前は,大工の手加工による木材の嵌合接合であったが,昭和60年代から,工場で機械加工(これを,機械プレカットと呼ぶ)するものが 増えている。また,昭和50年代から,接合部に接合補助金物を併用することが奨励されてきたが,平成7年の阪神・淡路大震災を契機として,急速にその使用 が増加した。そして,平成12年の法律改正で,実質的に使用が法制化された。また,近年は,折り曲げた金属の接合金物に耐力を負担させる「金物工法」が増 えている。
 以上は,軸組部分の構法の概要であるが,軸組構法住宅では,こうした軸組に,筋かいを入れ,あるいは,構造用合板などの面材を釘打ち・ビス止めして,地震や強風などの水平力に抵抗している。これらの水平抵抗要素を「耐力壁」と呼んでいる。
 したがって,柱や梁などの部材の断面や接合部が一定以上の性能を有するならば,木造住宅の耐震性能は,これらの耐力壁の量が決定的に重要である。そこで,地震の被害調査では,被害建物の壁量調査が行われ,被害との関係が分析される。
2.2 必要な耐震性能
 それでは,耐力壁はどのくらい,入れればよいのであろうか。次に,必要な耐力と,耐力壁の強さの求め方の概要を述べる。
 建築基準法の下で,建物に求められる耐震性能の目標は2つである。
 ?建物の耐用期間中に数回は起こるであろう地震(これ  を中地震と呼ぶ)に対して,建物は壊れることなく,  地震発生前と同じ状態に復帰すること。
 ?建物の耐用期間中に一度起こるかどうかという程度の  地震(これを大地震と呼ぶ)に対して,構造体は壊れ  ても,倒壊することはなく,つまり人命を護ることが  できる程度に留まること。
 ここで,「壊れる」とは,力学的には,材料が降伏に達することを意味し,「壊れない」とは,地震時に発生する応力が弾性範囲内で,地震が収束すれば,概ね残留変形がなく,原点に復帰することをいう。

 

 

 

低層鋼構造における耐震  中尾 雅躬 東京電機大学

Seismic Design Practice on Low Rise Steel Buildings
Masami NAKAO Tokyo Denki University

キーワード 鋼構造,耐震設計,耐震要素,スチールハウス,住宅



1. 建築耐震基準の基本理念
 現在の建築基準法における耐震設計に対する基本理念1)は,次のようになっている。
?建物耐用年数(50年)に1回以上受ける可能性のある 地震動に対しては,財産,機能および人命の保全を計る (一次設計の目標)
?建物耐用年数の10〜20倍の再現期間(500〜1000年) で発生する地震動に対しては財産の保全は諦めて,人命 の保全およびこれに必要な機能の保全のみを計る(二次 設計の目標)
 ?・?で想定される地震は,夫々「中地震」「極限地震」と呼ばれるのが通常である。これらに関連して想定されている地震動の強さを「付録」に示しておく。

2. 鋼構造における耐震設計の基本
 鋼構造建築物は,部材の座屈や部材間の接合部の破壊が生じない限り,鋼素材の優れた特性により他の構造種別より靭性に富む構造となる。従って鋼構造の設 計では座屈と接合部の破断に対する配慮が極めて重要である。現行の耐震設計法においても,部材の座屈と接合部の破断の防止により鋼構造建築物が鋼素材の本 来の優れた特性を生かし十分な耐震性を発揮する事を目的として,各種の規定が作られている。「1.」の想定地震?・?に対する耐震設計上の対応は次のよう になる。
中地震:十分な強度と剛性を持った構造とし,降伏現象が生じないようにする。
極限地震:降伏現象が生じるのは防止できないが,十分な塑性変形能力(エネルギー吸収能力)を持つ構造として,倒壊が生じないようにする。

 

 

 

鉄筋コンクリート造集合住宅建築物の耐震性能と診断・改修  井上 芳生 (独)都市再生機構

 

The Seismic Performance of Reinforced Concrete Multi-family Apartment Buildings
& Seismic Performance Evaluation and Retrofit
Yoshio INOUE Urban Renaissance Agency

キーワード 鉄筋コンクリート造建築物、集合住宅、耐震性能、耐震診断、耐震改修

1. はじめに
 平成17年11月に新聞紙上を賑わせた構造計算書偽装問題に端を発し,建築物に対する安全・安心感が揺らいでい
る。構造計算書偽装事件を契機として,平成18年6月21日に建築基準法および建築士法が改正・公布された。改正
の目的は,耐震偽装事件の再発を防止し,法令順守を徹底
することにより,建築物の安全性に対する国民の信頼性を
回復することにある。建築基準法および建築士等の改正の
骨子は,以下のとおりである。
 ・建築確認・検査の義務化
 ・指定確認検査機関の業務の適正化
 ・図書(図面,仕様書,計算書)保存の義務付け等
 ・建築士等の業務の適正化および罰則の強化
 ・建築士,建築士事務所および指定確認検査機関の情報
  開示
 ・住宅の売主等の瑕疵担保責任の履行に関する情報開示
 一方,近代都市に未曾有の大災害をもたらした1995年1月17日の阪神・淡路大震災(以下,本文では兵庫県南部地震と表記)から早くも12年が経過 し,人々の記憶の中から防災の重要性が忘れ去られようとしている。兵庫県南部地震以降震度6弱以上を観測した被害地震は,鹿児島県薩摩地方地震 (1997.05.13,M=6.4),岩手県内陸北部地震(1998.09.23,M=6.2),新島・神津島近海地震 (2000.07.01,M=6.5),鳥取県西部地震(2000.10.06,M=7.3),芸予地震(2001.03.24,M=6.7),宮城県沖 地震(2003.05.26,M=7.1),宮城県北部地震(2003.07.26,M=6.4),十勝沖地震(2003.09.26,M=8.0),新 潟県中越地震(2004.10.23,M=6.8),福岡県西方沖地震(2005.03.20,M=7.0)ならびに能登半島地震 (2007.03.25,M=6.9)と11を数え,平均すれば1年間に1つ以上の被害地震が発生していることになる。
 首都圏にも直下型地震の発生が近い将来発生するとの報道がなされ,さらに東海,東南海,南海地震の発生も想定されている今日,建築物の耐震性確保および 都市の防災性向上は,喫緊の課題である。建築物の耐震改修に関しても,平成17年9月に,「建築物の耐震化緊急対策方針」が中央防災会議において決定され ており,今後10年間で建築物の耐震化率を現行の75%から90%以上とすることとされている。
 本稿においては,集合住宅建築物に一般的に用いられている鉄筋コンクリート造に関する耐震性能を概説するとともに,耐震診断・耐震改修について概説することとしたい。

 

 

 

超高層住宅の構造  和泉 信之 戸田建設(株)

 

Structure of High-rise Housing
Nobuyuki IZUMI Toda Corporation

キーワード 超高層住宅,構造,骨組,鉄筋コンクリート造,耐震安全性



1. はじめに
 近年,臨海地域や再開発地区など大都市部では,多くの超高層住宅が建設されている(図1)。首都圏や関西圏だけではなく,地方の主要都市においても,シンボルタワーのような超高層住宅を見ることができる。
 一般に,高さが60m以上の共同住宅を超高層住宅と呼んでおり,我が国の超高層住宅は,500棟を超えると言われている。構造技術の進歩に伴い,超高層住宅の高さは年々高くなり,現在,高さが200mクラスの50数階建住宅が建設されている。
 本稿では,まず,超高層住宅の構造と耐震安全性について,その概要と基本的な考え方を説明する。次に,著者らが設計した54階建超高層住宅を例にして,耐震技術の現状を紹介したい。

2. 超高層住宅の構造

 我が国において,本格的な超高層の曙となった建築物は,高さ147mの霞ヶ関ビル(1968年)である。霞ヶ関ビルの竣工以後,超高層建築物の構造は, 鉄骨造が主流であった。これは,我が国が世界有数の地震国であるため,超高層オフィスビルなどの耐震構造として,比較的軽量で強度が高く,粘り強い鉄骨造 が選ばれたためである。一方,日常の居住性が求められる超高層住宅では,季節風などの強風時の揺れが少ない剛性の高い構造が適している。そのため,鉄骨よ りも剛性の高いコンクリートを用いた構造が用いられる。
 このような構造には,鉄骨を用いた鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)と鉄骨を用いない鉄筋コンクリート造(RC造)などがある。
 鉄筋コンクリート造(RC:Reinforced Concrete)とは,コンクリートを鉄筋で補強した構造という意味である。超高層住宅で用いられるRC造の柱の鉄筋を図2に示す。直径4cm程度の太 い鉄筋(主筋)を鉛直方向に配置し,直径1.3cm程度の細い鉄筋(帯筋)を水平方向に密に巻きつけて,柱の鉄筋としている。コンクリートの柱のなかに は,このような鉄筋が配されて,一体となってRC造の柱を構築している。このコンクリートと鉄筋の高強度化に関する研究開発が実施され,実用化が進んだた め,超高層住宅の構造は,最近では,高強度RC造が主流となってきている。これ以後, 鉄筋コンクリート造による超高層住宅(以下,超高層RC住宅と呼ぶ)を対象として話を進めることにしたい。

 

 

 

論文

電磁波レーダを用いた鉄筋の深度及び径の計測に関する一考察
    若林  正樹/田中  正吾

 

Fundamental Research on Measurement of Depth and Diameter of Steel Bars in Reinforced Concrete Using an Electromagnetic Wave (Radar)

Masaki WAKABAYASHI* and Shogo TANAKA*

Abstract

This paper analyzes the electromagnetic wave propagation paths of a radar in reinforced concrete using Snell's law. Using the derived paths, the depth and diameter of the steel bars are measured by making a pattern matching between the modeled received wave signal and the actual received wave signal of the radar. The relative dielectric constant of the concrete is also measured together with the depth and the diameter under the assumption that it is almost the same in depth direction, because the propagation speed is a function of the relative dielectric constant.Lastly, the effectiveness of the method is demonstrated by experiments; especially, the depth is measured with high accuracy. For the diameter, the error of one or two standard units (the same order of error as found with the electromagnetic induction method) is obtained and thus an additional device is suggested to improve the measurement accuracy.

Key Word :Non-destructive inspection, Reinforced concrete, Radar, Steel bar, Cover, Diameter, Pattern matching

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1. 緒言
 近年,多くの鉄筋コンクリート構造物に対し,構造上の様々な問題が生じている。このうち,特に強度上の問題に関しては,コンクリート中に配筋されている鉄筋のピッチ,深度及び径が重要な役割を果たしており,これらを正確に知ることは重要なことである1),2)。
 これらの諸量の検査に電磁誘導法や電磁波レーダ法がよく使用されているが, それぞれに欠点があり,いずれも安心して使えるものはまだ開発されていないのが現状である。
 例えば,電磁波レーダ法では,受信信号の強度を濃淡画像(Bモード画像)に変換し,目視によって検査担当者が諸量を判断するため,定性的,主観的であ り,コンクリート中に配筋されている鉄筋のピッチは確認できても,鉄筋の深度及び径を正確に計測することは困難であった。
 そのため,前川らは,濃淡画像の特徴的な円弧状の波形を双曲線で近似する定量的な方法を考えたが3),伝搬経路の解析にスネルの法則を使用しないなど, 解析に厳密性を欠き,鉄筋の深度の計測誤差が10%程度と計測精度がまだ低い。また,この方法では鉄筋の径情報が得られない。
 そこで本論文では,電磁波レーダがコンクリート内部のクラックや空洞の検査に多用されていることから4)−6), この電磁波レーダを鉄筋の深度,径情報の獲得に用いることを考え,電磁波レーダの電磁波伝搬経路の解析をスネルの法則を用いて厳密に行うことにより,鉄筋 の深度,径の新たな計測法を提案する。つまり,電磁波レーダをコンクリート上で鉄筋を横切って走査させたときの受信信号と上記伝搬経路に基づきモデル化し たときのモデル化信号とをパターンマッチングすることにより,鉄筋の深度及び径を計測することを考える。なお,コンクリート中の電磁波の伝搬速度はコンク リートの比誘電率の関数であることから,鉄筋の深度,径を測るためには,この比誘電率も知る必要があるが,本論文ではこれが深度方向にほぼ一定という条件 の下で比誘電率の計測も行う。
 なお,コア抜き取りなどによって比誘電率を測る方式もこれまで考えられて来てはいるが3),破壊的であるのみでなく,例え一箇所で比誘電率が正確に測れ ることはあっても,他のポイントでは比誘電率は必ずしも一定ではない。この観点から,本提案手法は非破壊的に任意の箇所で(平均値とは言え)対象の比誘電 率が測れ,かつこれに基づき鉄筋の深度と径が同時に高精度に測れるシステム論的な手法であり,検査手法のひとつとして有意義なものと位置付けられる。
 なお,非破壊検査の分野では,鉄筋の深度を表すのに,かぶり(コンクリート表面から鉄筋位置までの距離)という量がよく用いられるが,本論文ではコンクリート表面から鉄筋の中心位置までの距離を表わす用語として深度を用いる。

 

 

画像処理によるコンクリート表面のひび割れ抽出法  藤田 悠介/三谷 芳弘/浜本 義彦  九州工業大学名誉教授

 

A Method for Crack Extraction on Concrete Surfaces Using Image
Processing Techniques
Yusuke FUJITA*, Yoshihiro MITANI** and Yoshihiko HAMAMOTO*

Abstract

This paper proposes a crack extraction method using image processing techniques. Noise included in an image, such as irregular shading and blemishes, makes crack extraction difficult. We propose a new method to subtract from an original concrete surface image the smoothed one with a median filter. The difference between the two images retains only lines and points like a crack. This operation removes irregular shading and blemishes. We also propose a method to emphasize line structures and a technique to extend broken lines with a Hessian matrix. A comparative study of 60 actual images shows that this technique detects cracks clearly.

Key Words Nondestructive test,Crack, Image processing, Concrete, Damage evaluation



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 1. 緒言
 近年,トンネルや橋梁などのコンクリート構造物の劣化や老朽化が進んでおり,第三者被害に及んでいる。そのため,より効率的で合理的な点検方法が求められている1)−3)。
コンクリート構造物の維持管理において外観検査としての目視点検は出発点である4)。現在,点検を必要とする構造物の量は膨大であり,それに伴い点検の作 業量は多い。また,現状の点検結果の信頼性は必ずしも高くない。そのため,より効率的かつ合理的な点検が望まれている。この要請を受けてこれまで多くの点 検法が提案されている1)。中でも,外観検査は,レーダ法や超音波法などの非画像の点検に比べ,直接的であり,簡便なために注目されている。外観検査に は,大きく分けて赤外線画像を用いた点検と可視画像を用いた点検がある。
 赤外線画像を用いた点検は,うきや剥離などの内部欠陥を健全な部分との温度差により発見する方法である。しかし,雨水の影響を受けやすく,温度変化が少ない箇所においては強制的に加熱することが必要となる2)。
 これに対して可視画像を用いた点検は,赤外線画像のような処理が不要であり,作業の効率化,定量的評価,デジタルデータ化,低コスト化が図られる。この ため,目視点検に代わりうる方法として有望視されている。しかしながら,コンクリート表面の画像には照明の不均一性や影,水漏れなどによる汚れや傷などの 影響があるため,ひび割れなどの変状の抽出は極めて困難である。そのため,外川らのシステム5)では人手によるトレースやマーキングにより変状の抽出を 行っている。武田らの手法6)では照明などの影響を除去するために,予め表面に白板などを設置して撮影したシェーディング補正用のデータが必要となる。ま た,山口ら7),8)もひび割れの特徴を考慮した抽出手法を提案しているが,パラメータ値の決定は人手により行われている。河村ら9)は,対話型アルゴリ ズムにより半自動的に処理の選択やパラメータ値の最適化を行うひび割れ抽出法を提案することで自動化に関してある程度の改善を施している。このように,現 状ではひび割れ抽出の自動化は十分ではなく,より効率的で客観的な点検を行うために自動化が大きな課題となっている。
 本論文では,コンクリート表面のひび割れを撮影した画像を対象とした高精度なひび割れ抽出法を提案する。本手法は,2つの前処理と抽出処理,後処理から なる。ひび割れを自動的にかつ高精度に抽出するためには,影,傷および水漏れなどの影響を抑えることが特に重要である。まず,前処理では照明や影,傷,水 漏れなどによる汚れなどの影響を抑えるためのメディアンフィルタを用いた差分処理と,ヘッセ行列を用いた線強調処理を行う。次に,前処理を施した画像に対 する閾値処理によりひび割れを抽出する。この閾値処理では画像ごとに最適な閾値を自動設定する。最後の後処理では,ヘッセ行列を用いて線の延長処理によ り,抽出されたひび割れの途切れや欠損部分を補う。

 

 

     
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