機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2006年5月度

巻頭言

「最近の磁粉試験方法の紹介」特集号刊行にあたって  星川   洋

去る平成17年1月20日と21日の両日,表面探傷分科会の主催で,「製造検査および保守検査における表面探傷」をテーマとして第8回の表面探傷シンポジ ウムを開催した。表面探傷技術は磁粉探傷,浸透探傷,渦電流探傷などの技術を初めとして多岐にわたる技術を包含しているが,鉄鋼・非鉄金属の製造検査や各 種プラントの保守検査などにおける表面探傷技術に焦点を当て,現状の技術や問題点を認識すると共に将来の技術動向を展望しようと意図してのシンポジウムで あった。当該シンポジウムでは渦電流探傷,磁粉探傷,AE,漏れ試験,電位差法,光応用計測・探傷,硬さ計測,板厚計測など,幅広い分野から多岐に亘る各 種の非破壊試験技術に関する講演発表があった。その結果として多数の参加者を集めることができ,熱心な質疑討論が行われた。一般公開のシンポジウムとし て,表面探傷分科会会員以外,更には本協会会員以外の方々にも数多くご参加頂くことができた。このように,関係諸氏のご尽力によりシンポジウムを成功裏に 終了することができ,斯界にとって有意義なシンポジウムとなったと考える。 シンポジウムの終了後に,シンポジウムの貴重な内容を知るのが参加者だけに限定されるのは,最近の流行語の一つで表現して「もったいない」という意見が関係者の中 から持ち上がった。そこで,今回は「磁粉試験方法に関する技術」に焦点を絞って広く会員に紹介するために特集号を企画する運びとなった。 磁粉を用いた試験法は強磁性体である鉄鋼材料の表面開口割れや表面直下の割れを検出するための優れた方法であり,溶接部の表面探傷のための保守検査法など として構造物などの安全の確保に遍く利用されている。本特集号では,電磁界解析に基づいた漏洩磁束の評価方法,ISOに準じた磁粉に関する評価の結 果,ASME規格に基づくポータブルヨークによる磁粉探傷の適用調査結果,A型標準試験片に基づく試験体における有効磁界の評価法に関して,斯界の専門家 に詳細な紹介をして頂いた。これらの紹介は,磁粉試験による非破壊検査を現場で実施しておられる技術者の方々のご参考にして頂けるものと期待している。

*第8回表面探傷シンポジウム(平成17年1月)・実行委員長
 日本大学生産工学部(275-8575 千葉県習志野市泉町1-2-1)電気電子工学科 教授 電磁気を応用した非破壊試験の研究に従事。

 

解説 最近の磁粉試験方法の紹介

交流漏洩磁束法の数値解析  橋本 光男 職業能力開発総合大学校

Numerical Analysis Method for Alternating Leakage Magnetic Flux Method

Mitsuo HASHIMOTO Polytechnic university

キーワード 交流漏洩磁束,非線形数値解析



 

1. はじめに

高品質な鉄鋼製品の作りに品質評価技術は重要な役割を担っている。鉄鋼製品の表面検査手法の一つに非破壊検査手法の交流漏洩磁束探傷法がある。この手法は 高速かつ非接触で探傷が行える利点を有している。近年,表面の微小なきずを検出するため,より高い周波数を用いた交流漏洩磁束探傷法の適用が実用化されつ つある。しかし,実用に当たっては鉄鋼の持つ磁気ノイズの弁別などに課題があるのが現状である。そのため,検査の高度化にはきずの検出特性とノイズ特性を 評価することが重要となっている。交流漏洩磁束探傷法は磁気飽和領域の交流磁界を使用するため,鋼材の磁気特性の非線形性が強く現れる。また,この非線形 性に相まって渦電流が発生するため,この現象の理解を困難にしている。このため本探傷試験時の検出性能をさらに向上させるためには,試験における磁束や渦 電流の振る舞いを把握する必要があるが,これを実験的に求めることはきわめて難しい。なぜなら渦電流や磁束は板表面から位相を変化させながら,しかも非線 形な磁化特性を伴っている。しかも板内の磁束や渦電流は直接測定することはできなくて,表面からそれらの積分量としてしか観測できないためである。この現 象の解明には数値解析が有効である1),2)。しかし,強磁性体の非線形性をどう取り扱うか,さらに対象となるきずはきわめて小さく,解析モデルをどう取 り扱うかが問題になる。このような数値解析法について解説する。

 

 

ISO 9934に準じた磁粉の評価
   三須 由加/大塚 正規/佐野 嘉高/関野 郁夫 マークテック(株)

An Evaluation Method for Fluorescent Magnetic Particles According to ISO 9934-2

Yuka MISU, Masaki OTSUKA, Yoshitaka SANO and Ikuo SEKINO Marktec Corp.

キーワード 標準試験片,磁粉探傷試験,国際規格,磁粉,磁性体



1. はじめに
 現在施行されているJIS G 0565-1992 がISO 9934に準じて改定する準備がすすめられている。ISO規格ではJISに規定されていない磁粉の粒度測定や表記方法,磁粉の輝度,検査液の評価,安定性などの試験項目や試験方法が規定されている。
 本文ではJISとISOの大きな差異と特に磁粉の特性評価と検査液に関する試験について述べる。

 

ASME規格での携帯型極間探傷法のMT適用に関して
    坂口 智洋/高橋 公直/平  順一  (株)日本製鋼所 室蘭製作所

Portable Yoke MT Interpretation in Accordance with ASME Code

Tomohiro SAKAGUCHI, Kiminao TAKAHASHI and

Junichi TAIRA The Japan Steel Works, LTD. Muroran Plant

キーワード ASME,磁粉探傷試験,交流,直流,極間法



1. はじめに
 ASME Code上の材料製造に拘わる非破壊検査(NDT)の規定に関しては,材料規格 Sect. II(Ferrous Material Specifications)の他に,Sect. III(Rules for construction of nuclear facility components),Sect. VIII(Rues for construction of pressure vessels)等に要求項目として分類されている。このため磁粉探傷試験(MT)を実施するに際しては,Sect. IIを適用する場合は,SA - 275を引用しSect. III及びVIIIを適用する場合はSect. VのArt. 7を引用する必要がある。SA - 275とSect. V,Art.7相互間でMT要領の内容が一元化されておらず,基本的なところで食い違いがあったり,ASME Codeの場合は適用年度によってNDE要領が大きく異なることがあるので注意が必要である。今回,MTの中でも特に適用範囲の広い携帯型極間探傷法についてSA - 275とSect. V,Art. 7の要求内容の比較を行うとともに磁化電流のAC/DCについて検出能に関して調査を実施したので下記報告する。

 

A形標準試験片用電磁軟鉄板の調査と磁気フィルムを用いた試験体表面の有効磁界の強さの確認方法
    笠井 尚哉/藤原 康弘  横浜国立大学大学院   佐藤 研一  元・(株)日立製作所
    原田 鉄造 元・川重検査サービス(株)   中野 幹夫 (株)タセト   関根 和喜 横浜国立大学大学院

Investigation of Soft Magnetic Iron Sheets Used for A Type Standard Test Pieces
and the Verification Method of Magnetic Field Strength on the Surface of
a Test Object Using Magnetic Film

Naoya KASAI, Yasuhiro FUJIWARA Graduate School of Engineering, Yokohama National University
Ken-ichi SATO, Tetsuzo HARADA,
Mikio NAKANO Taseto Co., Ltd.
and Kazuyoshi SEKINE Graduate School of Engineering, Yokohama National University
キーワード 磁粉探傷法,A形標準試験片,電磁軟鉄板,磁気フィルム,有効磁界

1. はじめに
  磁粉探傷試験は,鉄鋼材料の表面開口割れや表面直下の割れきずを検出するための簡便かつ優れた非破壊検査手法として産業界で広く用いられている。磁粉探傷 試験の実施に際して,探傷部位の表面に十分な強さの磁界が与えられているか試験条件の妥当性を確認するためA形標準試験片が使用される。試験片での確認内 容として,探傷装置,磁粉,検査液の性能並びに連続法における試験体表面の有効磁界の強さ及び方向,探傷有効範囲,試験操作の適否を調べる試験片とし て,1960年にJIS G0565で制定され,以降40年以上使用されている。
 A形標準試験 片には大別して2種類あり,焼きなましをしたJIS C2504(電磁軟鉄板)の1種を素材板として用いたものをA1,冷間圧延のままのJIS C2504の1種を素材板として用いたものをA2として分類している。A1は円形溝,直線形溝を有するものがあり,A2は磁気異方性があるため圧延方向に 直線形溝が施されている。A1,A2共に板厚が50mm,100mmの2種類があり,それぞれ溝深さが異なり,この溝深さ/板厚の分数値が小さいものほ ど,高い有効磁界で磁粉指示模様が現れる1),2)。 試験片委員会表面部会では,MT標準試験片の磁気特性調査のためのW.G.を組織し,A形標準試験片について以下の事項を検討してきた。
(1)素材規定
(2)寸法規定 (人工きずの開口幅等)
(3)製造管理機器の品質管理
(4)寸法規定値幅での磁粉模様の安定性
(5)JIS G0565の解説図5の現状寸法での表現
(6)磁気フィルムを用いた試験体表面の有効磁界の強さ
の確認方法   この中で,(2)の寸法規定に関しては,開口幅の測定等を製品検査項目の1つとして設定すると共に,(3)についてはトレーサビリティの要求に対応するた め,シリアルナンバーを製品面に刻字し,製造ロット毎の品質管理を行うことにした。(4)と(5)については,寸法規定値幅での磁粉模様の安定性を確認す ると共に,解説図5に示す試験体表面の有効磁界の強さと比較し,良好な結果を得ることができた。
 本稿は,(1)の素材規定と(6)の磁気フィルムを用いた試験体表面の有効磁界の強さの確認方法の試験結果について報告する。

 

論文

多方向走査線を用いた異方性材料の3次元構造解析法 −X線CT画像への適用−
    竹村 貴人/高橋  学/小田 匡寛/平井 秀和/村越 厚志/三浦  真

Three-dimensional Fabric Analysis of Anisotropic Material Using

Multi-directional Scanning Line - Application to X-ray CT Image -

Takato TAKEMURA*, Manabu TAKAHASHI*, Masanobu ODA**,

Hidekazu HIRAI***, Atsushi MURAKOSHI*** and Makoto MIURA****

Abstract

Under a microscope, materials are characterized by the three-dimensional (3D) microstructure formed by constituent elements such as pores, voids and cracks, and their mechanical and hydrological properties are deeply related to these microstructural aspects. In order to discuss the mechanics of such geomaterials on a microstructure-basis, details of the 3D microstructure are needed. X-ray CT is a powerful tool to identify the microstructure by a non-destructive method, however, it is difficult to evaluate the microstructure using a reconstructed 3D image. We successfully evaluated 3D microstructural anisotropy for porous and fiber materials using a multi directional scanning line method based on an easy image analysis, and its result was visualized by stereo-net projection.

Key Words X-ray CT, Three-dimensional microstructure, Stereo-net, Anisotropy



1. 緒言
近年の急速な科学技術の高度化に伴い,極めて微細でかつ複雑な構造を持つ工業用材料などが利用されるようになってきており,微小欠陥の検出をはじめとした 高精度な品質管理を目的とした非破壊検査の需要が増加している。このような需要に応えるべく,X線非破壊検査技術はマイクロフォーカスX線源を導入したコ ンピュータトモグラフィー(マイクロフォーカスX線CT)により数mmオーダーの空間分解能での3次元構造の可視化を可能とした。このマイクロフォーカス X線CTは,これまでその構造が微小であるため観察の対象とならなかったセラミックスや骨などの生体材料の3次元構造の観察を可能とした。同様に,二酸化 炭素の地下貯留,石油開発,メタンガスハイドレード抽出や廃棄物の地層処分場の建設などで進められている地質材料の空隙構造の観察などにも利用されはじめ ており,多くの3次元構造の観察例が報告されている1)−4)。
 このように,X線非破壊検 査技術はマイクロフォーカスX線源や新たな検出器の導入などハード面では急速な進歩をとげており,その空間分解能を始めとする性能は飛躍的な進歩を遂げて いる5)。また,結果として得られる3次元画像データの画像処理や画像解析などソフト面では,輪郭抽出や画像認識などの研究がなされてきており,材料の欠 陥の検出などの強力な手段となっている6),7)。材料の3次元構造を再構成された画像データから定量的に捉える方法としては,これまで,ボクセル単位で 計測を行い,材料内の空隙や結晶などを測定対象として,密度や長軸方向などの幾何学的特性を評価してきた8)。しかしながら,ボクセル単位での計測では, 測定対象を個々に抽出することの困難さが常に生じ,特に異方性を評価するための長軸方向の抽出は困難を極める。本研究では,このような困難さを克服するた め,材料の3次元構造を多方向の走査線により検査をすることで測定対象の3次元構造異方性を測定することを試みた。また,その結果として得られる3次元構 造の異方性をステレオ投影により表現することを行った。

*原稿受付:平成17年9月27日
  産業技術総合研究所深部地質環境研究センター(茨城県つくば市東 1-1-1 中央第7事業所)
  National Institute of Advanced Industrial Science and Technology ( AIST), Research Center for Deep Geological Environments
  埼玉大学工学部建設工学科 Dep. Civil & Environmental Engineering , Saitama University
  テスコ(株) Tesco Corporation   スクラムジャパン(株) SCRUMJAPAN Co., Ltd.

 

資料

ISO/TC135 幹事国業務報告(2005年秋)
    高木 幹雄  ISO/TC 135 Chairman(芝浦工業大学)   羽田野 甫 ISO/TC 135 Secretary(東京理科大学)

Secretariat Report of ISO/TC 135 (Fall, 2005)
Mikio TAKAGI ISO / TC 135 Chairman (Shibaura Institute of Technology)
Hajime HATANO ISO / TC 135 Secretary (Tokyo University of Science)
キーワード 国際標準化機構,非破壊試験,ISO/TC 135,CEN/TC 138,ICNDT,EFNDT

1. はじめに
 2005年9月〜10月にかけて,ISO/TC 135非破壊試験(Non-destructive Testing)の幹事国業務に関連して下記の会議が開催された。
○9月12日〜13日 CEN/TC 138会議(フランス)
○10月15日〜21日 ISO/TC 135第15回総会,及び関連
のSC会議とWG会議(アメリカ)
 筆者らは幹事国業務の一環として,ISO/TC 135総会を主催するとともに,CEN/TC 138非破壊試験(Non-destructive testing)会議にISO/TC 135を代表して出席した。CENの会議の後にはISO中央事務局(スイス)を訪問し,ISO/TC 135に関する諸問題を協議した。表1は,2006年3月におけるISO/TC 135とCEN/TC 138の組織の概要である。
ISO/TC 135及びCEN/TC 138のいずれでも,非破壊試験技術者の資格と認証に関する事項が最大の課題になっており,上記のISO及びCENの会議でも度々議論された。2005年 9月には,非破壊試験技術者の訓練用シラバスと訓練機関に関する2件の技術報告書(Technical Report,TR)の案について,CENとの並行投票が締め切られ,2件とも承認された。さらにISO/TC 135総会の直前になって,超音波探傷法とAE法を担当するSC 3音響試験法(Acoustical Methods)の議長と幹事が,幹事国アメリカのANSIも知らぬ間に退任していたことが判明して,その対応に追われることになった。


 

     
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