機関誌「非破壊検査」バックナンバー 2017年11月度

巻頭言

「電磁気を用いた非破壊検査の高度化」―特集号刊行にあたって―  塚田 啓二

 製造プラントなどの産業インフラはもとより,道路,橋梁,港湾施設などの社会インフラなど,私たちを取り囲んでいるあらゆる構造物などに対する安全性確保は年々強く求められてきています。これらの安全性を確保し安心な社会を維持するものとして非破壊検査が一翼を担っているのはだれでもが知っているところです。非破壊検査が対象としているのは非常に多岐にわたっており,その対象物の構造および材料も多種多様で,しかも欠陥が生じた使用環境も様々な状況にあります。今回の特集を組んだ電磁気を用いた非破壊検査は,金属材料を用いた構造物に対して簡易に検査できる特徴と表面での欠陥が良くわかる特徴から古くから広く用いられてきています。その反面,電磁気現象を使った計測では基本技術としての革新的な技術が新たにでてくることは難しいと考えます。しかし,検査対象物には先ほど述べたように常に新しい構造と素材のものが出続けており,複雑さが増してきています。このため,電磁気を用いた検査も通り一遍の方法ではなく,常に現状に合わせた改良をしていく必要があります。そのためには,非破壊検査に対する社会ニーズにどのようなものがあるかを常に知っていく必要があります。本来,非破壊検査の学会は,社会ニーズに合わせた新しい技術や測定精度の向上あるいは使い勝手の向上などをトピックスとして取り扱うので,学会誌や論文誌などには基礎技術だけでなく,多くのケースレポート的な報告もでてくるはずです。しかし,扱っているものが欠陥の検知であるため,一般的には知ってほしくない事項を含んでいるため報告はそれほど多くはでてきません。しかし,本来は欠陥が発生した状態の普遍的な事項を見いだして,解析し,これらの情報を共有することが重要と考えます。本特集はそのような情報交換のソサエティづくりに少しでも役立てればと希望しています。
 本特集では電磁気を用いた非破壊検査で様々な側面から研究開発している方々に執筆をお願いしました。また,私も大変恐縮ですが,自分の研究を解説してこなかったので,これを機に執筆させていただきました。福岡克弘先生には磁粉探傷において複雑形状に対する欠陥検出能を向上させる印加磁場方式を,小山 潔先生には表面き裂検査用磁気プローブの最適化を,後藤雄治先生には磁性材料の電磁気特性の変化を解析する方法を,程 衛英氏には強磁性体構造物の減肉検査法を,内藤寛晴氏には磁気飽和渦電流探傷法を用いたタンク底板などの保守点検の実績を報告してもらいました。ぜひこれらの報告を通して,読者の皆様のニーズを掘り起こし新たな検査の議論と展開が生まれるきっかけになれば幸いです。

 

解説

立体形状試験体の磁粉探傷試験のための3D 回転磁界の発生
 滋賀県立大学 福岡 克弘

Generation of 3D Rotating Magnetic Field for MT of 3D Shape Test Objects
The University of Shiga Prefecture Katsuhiro FUKUOKA

キーワード:ロボット,災害対応,災害予防,地上走行ロボット,索状(ヘビ型)ロボット

はじめに
 磁粉探傷試験においては,き裂に対して直交する方向に磁化を与えた場合に,き裂からの漏洩磁束が大きくなり,明瞭な磁粉模様が現れる。よって,探傷箇所を適切な方向に磁化するため,コイル法,軸通電法,極間法など各種磁化方法1)があり,被検査対象物の形状および予測されるき裂の方向に応じて適宜選択され,探傷試験が実施されている。機械部品やプラントおよび橋梁などの各種構造物は多くの鉄鋼材が用いられており,その表面き裂の探傷には磁粉探傷試験が多く採用されている。しかしこれらは,立体的で複雑な形状をした箇所も多く,検査対象箇所に磁化器を直接配置できない場合や,検査対象となるき裂に対して適切な方向に磁化を与えることが困難な場合も存在する。さらに,複雑形状部では応力集中によりき裂の発生率も高く,危険な因子を抱えた箇所を十分な精度で探傷できない可能性がある。したがって,複雑形状部における非破壊検査精度の向上は,安心・安全な社会を実現するため,早急に検討・開発すべき課題である。
 検査箇所に存在する全方向のき裂を,見落としなく検出するため,試験面に回転磁界を発生させ磁粉探傷する手法が検討されている2)−6)。回転磁界を発生させる一手法として,3 相交流を利用した回転磁界型磁化器4)(以降,3 極コイルと呼ぶ)がある。この磁化器は,3 極のコイルに位相が120°異なる3 相交流電流を印加し,2 次元平面に回転磁界を発生させる。本稿では,立体的な形状をした被検査体において,効率的でかつ信頼性の高い検査を実現するため,立体形状部における全方向のき裂を磁粉探傷試験するための,磁化システムの開発について解説する。具体的には,図1 に示すように3 極コイルを2 台用いることにより,3 次元立体空間への回転磁界の発生を試みた7),8)。有限要素法を用いた数値解析を行い,両磁化器間の空間に生じる回転磁界分布および立体形状をした試験体各面における磁束密度分布を評価し,磁化手法の有用性の確認と磁化条件の検討に関して報告する。

 

面状探傷を指向した渦電流上置プローブの基礎検討について
 日本大学 小山 潔、本宮 寛憲、星川 洋、澤 大輔

Study on Surface Eddy Current Probe for Detecting Flaws
within a Certain Areaduring its Single Scan

Nihon University Kiyoshi KOYAMA, Tomonori HONGUU, Hiroshi HOSHIKAWA and Daisuke SAWA

キーワード: 渦電流探傷試験,上置コイル,面状探傷,マルチプローブ,きず検出特性

はじめに
 導電性材料の表面及び表面近傍の検査に適用される渦電流探傷試験において,探傷精度を保持しつつ探傷時間の短縮ができれば,試験コストの削減ができ経済的な効果は大きい。その1 つの方法として,面状探傷が可能な試験コイルを用いれば,探傷時間の短縮を満たし得る。面状探傷が可能な試験コイルとして,プローブを複数個配置するマルチ化プローブとすれば良い1)−6)。しかし例えば,リフトオフ雑音小さくSN比高くきず検出を行えるクロスポイントプローブ7)やΘ プローブ8),9)などのような励磁コイルと検出コイルから成るプローブをn 個並べた場合には,探傷器に2n 個のコイル数を必要とし装置が複雑となる。そこで,コイル数を削減し装置を簡便化するために,n 個の励磁コイルと1 つの検出コイルを組み合わせたマルチ励磁式の面状探傷上置プローブを考えた。こうすれば探傷器へのコイル数をn + 1 と約半分で良いこととなる。なお,n 個の検出コイルと1 つの励磁コイルとする方式のプローブも考えられる。検出目的に応じ適用すれば良い。
 初めに,励磁コイルの形状を平板の探傷に多用されている円形としたプローブで考察したが,円形の励磁コイルでは,走査方向と垂直なきず(以降,縦きず)に対しては安定的に検出できるが,走査方向に平行なきず(以降,横きず)に対しては励磁コイル中心に対するきず位置により探傷感度が低下する問題を生じた。そこで,横きずに対する探傷感度の低下を抑えるために円形の励磁コイルと矩形の励磁コイルを組み合わせた構造とすることとした。提案するマルチ励磁式の面状探傷上置プローブは,m 個の円形励磁コイル及び1 つの矩形横置励磁コイル(励磁コイル数はm + 1 = n 個)と1 つの矩形縦置検出コイルから構成される。検出コイル巻線方向と走査方向とを垂直にしてプローブを配置した場合に,円形励磁コイルで縦きずを,矩形横置励磁コイルで横きずを検出するものである。本稿では,提案する面状探傷用渦電流上置プローブの基礎的なきず検出特性を紹介する。

 

電磁気を使用した磁性材料の評価
 大分大学 理工学部 創生工学科 後藤 雄治

Evaluation of Magnetic Material Using Electromagnetism
Oita University, Division of Mechatronics Yuji GOTOH

キーワード: 初磁化曲線,導電率,腐食,鋳鉄,残留オーステナイト,電磁界解析

はじめに
 磁性材料に交流磁界を加えると,印加磁界と電磁誘導現象による渦電流によって材料内の磁束は決定される。定周波数の交流磁界が磁性材料に印加された場合,材料内の固有の透磁率や導電率の大きさによって磁束の発生量が変化することになる。この磁束の変化量を測定することによって磁性材料内の電磁気特性を知ることができる。磁性材料の電磁気特性は,材料中の様々な状態によって変化するため,磁束の変化量から間接的にその磁性体の状態を評価することができる場合がある。交流磁界はコイルを含む各種電磁気センサを用いて電気信号として検出することができるため,高速かつ非接触で材料の評価が行えるメリットがある。そこでここでは,交流磁界の大きさを検出することで,磁性材料の状態を評価する手法について紹介する。具体的には,鋼板上に生成された腐食部の評価1)と,高クロム鋳鉄材内の残留オーステナイト含有量の評価2)−4)について述べる。

 

磁気センサを用いた鋼構造物の表面および内部の欠陥検査
 岡山大学 塚田 啓二

Magnetic Non-Destructive Testing Using Magnetic Sensors for the Detection
of Inner and Surface Flaws in Steel Structures
Okayama University Keiji TSUKADA

キーワード: 極低周波,渦電流,漏洩磁束,鉄鋼,欠陥

はじめに
 道路,鉄道,港湾,空港などの多くの社会インフラの生活環境下で人の生活が営まれている。しかし,これらの多くは戦後の高度成長期に建設されたものが多く,年々,加速度的に老朽化した施設が増えている。例えば道路橋梁においては5 年後には建設後50 年以上たつものが約40%以上となる。老朽化するインフラの事故リスクは高まってきており,維持管理するための体制作りが急務となっている。インフラはコンクリートや鉄鋼材料が多く使われており,その中で鉄鋼構造物の製造コストは高いが,メンテナンスがしやすいので維持管理するための検査が多く適用できる。鉄鋼構造物の点検には目視をはじめとして,き裂検出のための磁粉探傷法やその後の精密測定としての超音波検査が広く実施されている。一方表面探傷法である渦電流探傷や漏洩磁束探傷法はその適用が限られている。これら磁気を用いた探傷法は非磁性では容易であるが,鉄鋼材料に対しては磁化や透磁率のバラツキによる磁気ノイズと,欠陥信号との区別がつきにくい場合がある。また,印加した磁場が到達する深さを表す指標としての表皮深さも非磁性材料に比べ鉄鋼材料では浅くなるため,検査箇所が表面に限定されていた。しかし,磁気を用いた探傷法は基本的には接触しなくてよく簡易に計測できる特長がある。手間や時間などの検査コストの点では優位性があると考えられる。このため,磁気探傷法の適用が限定されていた表面をさらに広げ,内部や裏面の欠陥検査の可能性が求められていた。
 近年,高密度磁気記録媒体の読み出し用としての磁気抵抗素子(MR)や,コンパスとしてのホール素子,超高感度な超伝導量子干渉素子(SQUID)などのマイクロデバイスである磁気センサの発展が目覚ましいものがある。従来磁気探傷法で用いられてきたコイル方式に比べ磁気センサでは特に周波数特性が直流から高周波まで一定の感度が得られることや,またマイクロデバイスは局所的な情報を得られる特徴がある。このため,磁気センサを用いることにより磁気探傷法の適用を広げることができると考えられる。コイルや磁気センサを用いた計測対象である磁場は3 次元のベクトルであるので,検出方向など計測対象に応じて最適化する必要がある。特に磁気センサはコイルに比べ微小なので,様々は配置が自由に行える特徴を持っている。非破壊検査における磁気センサで各磁場成分を計測した場合の印加磁場に対する各非磁性材料や磁性材料が示す周波数磁気応答特性の特徴については報告した1)。
 渦電流探傷法と漏洩磁束探傷法の歴史は古く,特に渦電流探傷法は表面きずの検出やコーティング金属膜の厚み計測で多く使われている。一般にはインフラなどに使われている数mm から数cm の厚い鋼板には適用できなく,超音波が使われている。しかし,超音波検査は錆による腐食などの表面の状態により,錆や塗装をはがす表面処理が必要とされ手間がかかる場合がある。最近ではコイルで電磁石を使って導体に超音波を発生させ,板厚を検査する電磁超音波探傷法(EMAT)が使われ始めている。また漏洩磁束法により鋼板の板厚を検査する方法も報告されており,著者らも低周波磁場を印加して漏洩してくる磁場を表面に水平な磁場を検出して腐食による減肉した部分を推定する方法を報告した2)。しかし,渦電流探傷法で厚い鋼板の板厚を簡易に検査できる方法は今までなかった。
 表面きず検査には渦電流探傷法が多く使われており,例えば強磁性材料に対しては貫通コイルによる鋼管の表面きずや内挿コイルによる熱交換器などの内面きずなどの検査に使われている。強磁性体の検査は先に述べた磁気ノイズの影響が大きいため,きず信号との分離が難しいことがある。一方,厚い鋼板の内部き裂を検出する方法としては,板厚と同様に超音波が最もよく使われるが,表面近くのき裂に関しては検出が困難となる。このため,表層部あるいは裏面のき裂に対して漏洩磁束法の適用が試みられている。磁束漏洩法では鉄鋼材との間で磁気回路を形成し,き裂箇所から漏れてくる磁束を検出するものであり,漏洩磁束を多く得るため鉄鋼材を磁気飽和させる方法が一般的に取られる。このため,電源として大きな消費電力が必要とされた。しかし,インフラの点検の場合,求められる装置の要求仕様として狭い作業箇所でバッテリ駆動できる小型の装置が特に望まれている。
 厚板の鋼板の板厚を渦電流探傷法で検査できるようにするためには,深い表皮深さが得られる低周波磁場の印加と,低周波での微弱な信号を検出できるセンサの使用により実現できると考えられる。また,漏洩磁束探傷法でも同様に低周波で磁束を対象に流し,高感度な磁気センサで検出することにより表面のみならず内部のき裂までを検出できる可能性がある。このため,本稿では高感度な磁気センサを非破壊検査装置に組み込み,従来鉄鋼材料に対して渦電流探傷法で検査されてこなかった腐食による減肉の板厚検査や,内部のき裂を検査する新たな探傷法を開発してきたので報告する。

 

低磁化強度漏洩磁束法による強磁性体の肉厚測定・評価
 (一財)発電設備技術検査協会 溶接・非破壊検査技術センター 程 衛英

Low-Level Magnetization Magnetic Flux Leakage Testing
of Ferromagnetic Plate Thickness

NDE Center, Japan Power Engineering and Inspection Corporation Weiying CHENG

キーワード: 漏洩磁束探傷法,強磁性,磁気測定,磁気特性,肉厚,減肉,MIセンサ

はじめに
 強磁性鉄鋼構造物に発生した損傷(減肉や欠陥,材質劣化など)の磁気探傷試験法は,被検体が磁化されるとき,損傷によって表面または表面直下において磁束線の流れが乱され,表面に漏れる磁束を検知することにより,表面および表面直下の損傷を検出する方法である。磁束の漏れが磁化程度に依存しているため,通常の漏洩磁束法では,被検体の磁気特性に応じて,数百~数千A/m(Ampere/meter)程度の磁界を加え,被検体内部の磁束密度を該当材料の飽和磁束密度の約0.7 ~ 0.8 倍,通常の鉄鋼材料では1.0 ~ 1.4 Tesla 程度まで磁化させる1),2)。裏面損傷の検出には更なる強力な磁化が使われる。被検体をこのような強磁界・高磁束密度レベルに磁化させるために,大起電力を供給可能な磁化装置(磁化器)と電源が必要である。例えば,電磁石を用いて極間法で被検体を磁化させる場合,許容電流が大きくかつ巻き数が多い励磁コイルと大容量の電源装置が必要である。よって,磁気ヘッドが大型・重量化し,現場操作に負担を与える上,検出の空間分解能が低下し,コイル発熱などの問題も現れる。更に,検査時の強力な磁化によって被検体が磁化され,検査後消磁するプロセスが必要となり,検査効率が低下してしまう1),2)。また,従来の漏洩磁束法は漏洩磁束密度信号から損傷を評価しており,簡易かつ定量な損傷評価方法はまだ確立されていない。
 本研究は,①空気の透磁率がゼロではなく,磁束は必ず空気中に‘漏洩’すること,②極小磁界付近に材料の透磁率の磁界強度による変化が少ないこと,③また,磁界の接線成分が連続であることに基づいて,被検体の低磁界領域の磁化特性に着目し,小電流の直流あるいは低周波交流電流を磁化器の励磁コイルに流して試験体を低強度で磁化させ,高感度磁気センサを用いて空気中に漏れる微弱な磁束密度信号を検知することによって,強磁性体の肉厚や残肉厚を測定・評価する3),4)。 本稿では低磁化漏洩磁束法による強磁性構造物の肉厚(減肉の場合では残肉厚)評価3),4)や磁気特性評価5)の基本原理,電磁気数値解析による検証,および試験検証について解説する。

 

Saturated Low Frequency Eddy Current Testingの実績
 日本工業検査(株) 内橋 寛晴

Achievements of Saturated Low Frequency Eddy Current Testing
Japan Industrial Testing Co., Ltd. Tomoharu UCHIHASHI

キーワード:渦電流探傷装置,連続板厚測定装置,タンク,配管,腐食

緒言
 日本工業検査(株)(以下「当社」とする)では以前より保守検査を目的として渦電流探傷試験を実施してきた。その検査対象は主に石油プラントや化学工場などにおける熱交換器の伝熱管で,内挿コイルを用いた通常の渦電流探傷試験に加えリモートフィールド渦電流探傷試験,局部磁化渦電流探傷試験,割れ探傷試験等様々な手法を用いた検査を実施し,現在も継続している。
 一方,2000 年頃からは磁気飽和渦電流探傷試験やアレイプローブ,回転プローブを用いた技術を取り入れ検査対象物の可能性を拡大している。
 今回はその中からSaturated Low Frequency Eddy CurrentTesting(磁気飽和渦電流探傷試験)を用いた保守検査の適用実績について紹介する。

 

     
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