機関誌「非破壊検査」バックナンバー 2018年11月度

巻頭言

「最近の漏れ試験の現状」特集号刊行にあたって 津村 俊二

間の外から別の流体が入ってくる現象である。その漏れは,大切な物質の逸出,環境破壊,爆発・火災事故,製品の品質低下等を引き起こし,大きな損害を与えることが多い。漏れ試験は,その漏れを早期に検出(漏れの有無,位置,量など)し,事故や損失を未然に防止する技術である。漏れ試験の歴史は,瓶や壺等からの液体の漏れから始まり,造船,自動車,各種石油・ガス化学プラント,原子力や航空宇宙産業・真空業界まで産業の発展に対応するかたちで技術進歩と普及を繰り返してきた。我が国の優れた製造業,工業製品を,安全,環境,品質の面で支えている重要な技術の一つに漏れ試験がある。
 “漏れの検出”という目的を達成させる試験方法としては,液体漏れ,発泡漏れ試験など視覚を利用する試験法から圧力変化を測定して活用する試験法,また特定のガス(サーチガス)を用い,漏れてきたガスを分析装置で検出する試験法等があり,原理,手法等も多岐にわたっている。対象とする漏れを,どの試験法,技法を使用して,いかに速く,要求する感度レベルで,信頼性の高い試験を実施するかが問われることになる。
 求められる対象漏れ物質,用途,環境などは,産業界の状況により変化するが,その要求に対応するための技術開発,新しい技術普及活動が続けられている。
 また,漏れ試験には漏れを検出することだけでなく,その量を定量化することも重要となっている。微量な標準漏れの校正等の動きも産総研を中心に進展がみられている。
 国際的には,漏れ試験は国際標準化機構ISO/TC 135 技術委員会のSC 6「漏れ試験」に分類されている。日本は長年その幹事国となっており,議長及びセクレタリも我が国から選出されてきた歴史がある。
 漏れ試験技術者の資格・認証制度については,NDIS 0605(ISO 9712:2005 に準拠)に基づき,2012年秋からレベル1 が,2013 年春にはレベル2 が2019 年からは,JIS Z 2305 に基づく制度に移行することが決まっている。
 これにより,国内の漏れ試験に携わる技術者の増加と,技術レベルの向上に期待するところである。
 今回の特集は,各漏れ試験の現状と今後の動向,規格関連,標準漏れの校正,資格認証制度等について,それぞれの分野の専門家にご執筆いただいた。
 「視覚を利用した漏れ試験」は,筆者が担当し,液体や気体の微量な漏れを赤色や蛍光指示模様,または発泡現象として目視で観察できるようにした方法を中心に記載した。
 ヘリウム漏れ試験では,井川氏らに吹付け法によるタクトタイムの考え方とその短縮方法について,具体例を挙げて解説していただいた。
 医薬包装品における漏れ試験の現状について,差圧法を例に井元氏に,また,次世代エネルギー(水素自動車を含む)としても注目度が高い水素については,松原氏に紹介をお願いした。
 漏れ試験は,漏れ部の検出とは別に,漏れ量を把握することも必要で,その基準漏れと定量化法について産業技術総合研究所の新井氏に解説をお願いした。
 国際規格及び漏れ試験技術者認定制度については,ISO/TC 135 のチェアマンである大岡氏に現状と動向を詳しく説明していただいた。
 本特集号が,漏れ試験に関連する方々,また,ご興味のある方々に少なからずとも情報源の一部としてお役に立ち,漏れ試験分野の発展につながれば幸いと願っている。

 

解説

最近の漏れ試験の現状

漏れ試験の国内外の規格と資格・認証制度の動向について
元学校法人ものつくり大学 大岡 紀一

Domestic and Overseas Standards Concerning Leak Testing and
Trends of Qualification / Certification Schemes

Former guest professor of Institutes of Technologists
ISO/TC 135 Chairman Dr. Norikazu Ooka

キーワード:非破壊試験,資格・認証制度,漏れ試験,ISO 9712,JIS Z 2305,NDIS 0605,国際規格,国内規格,教育・訓練

はじめに
 国際規格化の必要性が叫ばれるようになったのは第二次大戦後である。しかし,国家規格の必要性が各国の事情によって異なっているため,独自の漏れ試験に関する規格を制定していても容易に進展はしなかった。ISO においても,漏れ試験に限らず,先進国である,特に米国と欧州の間での主導権争いから米国がISO/TC 135 から撤退することになり,漏れ試験に関するISO の分科会(ISO/TC 135/SC 6)からも脱退に至った。しかし,米国は2015 年にISO の分科会に復帰したことで漏れ試験の国際規格の制定が再度スタートし,活性化されつつある。漏れ試験に関しては,(一社)日本非破壊検査協会(以下JSNDI という)において,1995 年に最初のテキストを作成し,講習会を開催した経緯があるものの,それから20 年以上が経過して,資格・認証制度がスタートしている。
 一方,漏れ試験の資格・認証制度についてはISO 9712:2012(非破壊試験−技術者の資格認証)が国際整合化された世界で唯一の非破壊試験技術者のための規格である。この中にLeakTesting(漏れ試験)が各種非破壊試験の中の一つのMethodとして規定されている。
 ここでは,漏れ試験の国内外の規格及び漏れ試験を対象とする製品などの試験規格について述べる。また,非破壊試験技術者の資格・認証制度についてはその概要を紹介するとともに,漏れ試験について資格及び認証に至る経緯,関連する主な規格,NDIS 0605 のJIS 化に伴う試験技術者に求められるレベル,資格試験などについて述べる。

 

漏れの国家標準とそのトレーサビリティ
国立研究開発法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター 新井 健太

Novel Monitoring and Diagnosis Method for Low-speed Rolling Bearings Using
Acoustic Emission for Bucket Elevators

National Fisheries University Hiromitsu OHTA
Tokuyama Corporation Genya MATSUDA

キーワード:品質保証,リーク試験法,標準リーク,国家標準,圧力変化法,漏れ量

はじめに
 漏れ(リーク)試験は,我々の安全・安心を担保する重要な非破壊試験の一つであり,真空装置,原子力,宇宙開発,自動車,冷凍空調機器,医療,食品など様々な産業で実施されている。漏れ試験は,試験結果が定量的という点で,浸透探傷試験やX 線試験など他の非破壊試験と異なる特徴を持つ。その特徴を存分にいかすためには,漏れ量の国家標準へのトレーサビリティが必要である。本稿では,このような漏れ試験の定量化方法,及びその定量化の基準であり産総研の保有する各種国家標準(リーク標準)について解説する。その他の漏れ試験方法の詳細については,本特集号の他の記事や(一社)日本非破壊検査協会から出版されている「漏れ試験I」「漏れ試験II」「漏れ試験III」及びその関連する書籍等を参考にされたい。

 

視覚を利用した漏れ試験
(株)タセト 津村 俊二

Leak Testing Using Visual Sensation
TASETO Co., Ltd. Shunji TSUMURA

キーワード:漏れ試験,発泡,液体,蛍光染料,現像剤,浸透探傷試験

はじめに
 漏れ試験には,漏れによる圧力の変化を圧力計で測定して検知する圧力変化法,特定のサーチガス(ヘリウム,ハロゲンガス等)の漏れを検出装置(ディテクタ)を用いて検出する漏れ試験等があるが,それらは漏れにより変化する数値・データを解析し,漏れの情報を得るものである。
 それに対し,気体の漏れを発泡現象で検出する方法,気体や液体の漏れを見やすい指示模様として表示させて,それを目視で観察して検知する方法等は視覚を利用した漏れ試験ということができる。
 これら視覚を利用して検出する漏れ試験には,次のようなものがある。
①発泡漏れ試験(液没法,発泡液塗布法)
②蛍光染料を用いた液体漏れ試験
③現像剤を用いた液体漏れ試験
④浸透探傷試験の応用
⑤アンモニア漏れ試験
 いずれの試験方法も,漏れ箇所を直接的に確認できること,特別な検出装置等が不要であること,漏れ位置を特定できること等から,広く産業界で使用されている。

 

医薬品包装業界における漏れ試験の動向
(株)フクダ 井元 宏行

Trends in Leak Testing in the Pharmaceutical Packaging Industry
FUKUDA CO., LTD. Hiroyuki IMOTO

キーワード:漏れ試験,医薬品包装,判定基準

はじめに
 漏れ試験は,貫通した“きず”を検出する非破壊検査だが,その試験方法は,発泡漏れ試験方法,圧力変化漏れ試験方法などのように漏れ出た気体が起こす現象(発泡,圧力降下など)を捉える,または,ヘリウム漏れ試験方法のように閉じ込めたサーチガスの流出を検出する方法が一般的で,その単位も漏れ量(ある条件下で漏れ箇所を通過する,定められた液体または気体の流量)で表されることが多い。その点,RT,UTなど“きず”そのものを検出する非破壊検査とやや趣が異なる。当然,漏れ試験においても“きず”の状態は重要なテーマだが,危険なガスの封止などを考えると,ガスの漏れ出た量がリスクの大小に直接つながる側面もあり,試験の依頼者は漏れ量を基準に安全性を考えることが多い。
 漏れ試験においては,その試験方法で使用する媒体で試験し,その漏れ量を検出する。例えば,ヘリウム漏れ試験方法であれば,ヘリウムガスになる。しかし,ほとんどの場合,試験体が運用されるときの媒体はそれとは異なる。同じ貫通した“きず”であっても,媒体が異なると漏れ量も変わる。試験仕様については,試験技術者と試験の依頼者との間で検討され決定されることが多いが,専門性が高く実験を通じて運用条件と試験条件を関連付けることも多い。また,それが重要なノウハウの一つになっている。
 医薬包装業界でこの課題に対する新たな取り組みがあり,それを紹介する。

 

最近のヘリウム漏れ試験技術の動向
島津産機システムズ(株) 井川 秋夫  西原 隆治

Recent Trends of Helium Leak Testing Technology
Shimadzu Industrial Systems Co., Ltd. Akio IGAWA and Takaharu NISHIHARA

キーワード:ヘリウム,漏れ試験,応答時間,試験体,漏れ箇所,サーチガス

はじめに
 近年の漏れ試験の動向として,より生産効率の向上のためにタクトタイム短縮が強く求められ,その対応施策構築が急務となってきている。しかしながら,どのような技術指針をベースにタクトタイムの短縮を図ることができるかが課題である。
 試験体の特性や漏れ試験精度に合わせて漏れ試験方法を選択する必要があるが,最も高感度にかつ高精度に漏れ試験を実施できる漏れ試験としてヘリウム漏れ試験を実例にしてみる。このヘリウム漏れ試験方法の一つである真空吹付け法を図1 に示し,図2 にその実例を示す。試験体を真空配管と真空遮断バルブを介してヘリウムリークディテクタに接続する。次に,リークディテクタにて試験体内部を大気から所定の真空まで排気した後,リークディテクタを計測状態に維持する。試験体の溶接箇所などにサーチガスとなるヘリウムを吹付けプローブで吹付けて,漏れ試験を実施することになる。
 このヘリウム漏れ試験はその検出感度の高さと試験体を汚染しないヘリウムガスをサーチガスに使用することが最大の特長であり,自動車,空調機器,半導体,食品,医薬品などの様々な産業分野に応用されている。しかし,試験体の形状・材質などが多種多様となり,その試験条件を決定するためには多くの技術的検証が必要となる。
①試験体の真空シール方法の確立
②試験体の放出ガスによる真空排気への影響
③試験体のヘリウムの透過・吸蔵によるバックグラウンドへの影響
④試験体へのヘリウムガス吹付け方法
⑤試験体の漏れ構造による応答時間の把握などが挙げられよう。
 本稿においては,それに基づいたタクトタイムの決定方法の考え方について述べる。タクトタイム短縮の実現にあたっては,試験体に吹付けたサーチガスが漏れ箇所よりどのように流入し,リークディテクタで検出されるかのプロセスを把握することの重要性を以下に解説する。また,実例を基に求められた応答時間から,どのような指針によってタクトタイム短縮を図ることが可能となるかを説明していく。
 漏れ試験技術者の資格試験制度が2012 年秋期から始まり,今年で6 年目を迎えようとしている。漏れ試験実技講習会のレベル1 コースとレベル2 コースのヘリウム漏れ試験の実技講習会において,講習内容のキーワードの一つとして「応答時間」に重きをおいて実技講習を行っている。応答時間の考え方と決定要因の明確化がポイントとなることについて,以下に述べる。

 

水素+ 窒素ガスを用いた漏れ試験について
(株)エフアンドエーテクノロジー 松原未央子  松原 紀之

Leak Testing using Hydrogen Gas and Nitrogen Gas
F and A Technology Co., Ltd. Mioko MATSUBARA and Noriyuki MATSUBARA

キーワード:漏れ,水素漏れ試験,リークテスター,漏れ検査,漏れ検査装置

はじめに
 産業界において漏れ試験は,①製造工程での不良品の早期発見,②製品の品質保証,③設備安定稼働のための保守および④製品開発中の評価などの工程で実施されている。
 漏れ試験では,発色,発光,発泡,圧力変化およびトレーサガス(ヘリウム,アンモニア,水素)検知等で漏れを検出する様々な試験が開発され活用されている。
 本稿では,トレーサガスとして水素5%窒素95%工業用混合ガスを使用する水素漏れ試験を紹介する。

 

     
1か月半年年間

<<2023年02月>>

    • 1
    • 2
    • 3
    • 4
    • 5
    • 6
    • 7
    • 8
    • 9
    • 10
    • 11
    • 12
    • 13
    • 14
    • 15
    • 16
    • 17
    • 18
    • 19
    • 20
    • 21
    • 22
    • 23
    • 24
    • 25
    • 26
    • 27
    • 28
1か月半年年間

<<2023年01月~2023年06月>>

1か月半年年間