機関誌「非破壊検査」バックナンバー 2019年11月度

巻頭言

「電磁気応用による配管の保守検査技術」
特集号刊行にあたって 藤原弘次

 今年も大型の台風が列島を襲い,各地で大きな被害をもたらしました。中でも台風15 号は千葉県を中心に長期にわたる停電を発生させ,その影響はいまなお残っているでしょう。ライフラインの中でも電力は中心的な存在であり,停電は上下水道の停止や携帯電話などの通信障害も引き起こしました。また不運にも猛暑と重なりエアコンが使えず多くの人が熱中症にかかり,亡くなられた方もいました。熱中症を避けるため車中泊をした人もガソリン補給がままならず,数少ない開店しているガソリンスタンドの前に数km もの行列に何時間も並んだりと,2 次・3 次的な被害も多く発生したことは記憶に新しいことでしょう。ライフラインの重要性は頭の中ではよく認識しているつもりでも,実際にその障害が生じると想像を超えるような範囲に影響を及ぼすことを目の当たりにさせてくれました。
 ライフラインのインフラを含め,重要な設備は企業や自治体等により日々維持管理が行われています。対象は動力であるモータや,回転構造物であるロールやタービン,それらを収納する構造物,さらには設備を収納する建屋など極めて広範囲にわたります。その中でも,配管の維持管理は設備の中でも大きな要素であるでしょう。配管は文字通り,気体や液体あるいは固体を移送するために用いられますが,化学プラントのように配管の中で物質間の反応をさせたり,発電所では配管による熱交換で蒸気を発生させたり,あるいは反対に蒸気を水に戻すなど,それぞれのプロセスの中で主要な役割を担っているものが多くあります。そのため配管の形状も単純な筒形状だけでなく内外面に凹凸をもった複雑なものや,過酷な環境での使用に耐えるために様々な材質が用いられています。発電分野では発電効率を上げるために蒸気温度の高温化が進んでおり,さらに配管への負荷も大きくなってきています。また,配管は静止構造部であることから長期間連続して使用される場合がほとんどで,経年による変形や劣化を生じているものも多く,さらに外部からのアクセスが容易でないために検査の手法も限られる状況でもあります。配管の損傷による漏洩等が生じるとたちまち設備の停止が引き起こされ,復旧に時間がかかり経済的な損失が発生することは勿論のこと,場合によっては社会に不安を与える場合もあります。
 そのため配管検査については,過去より継続的に検査技術の研究開発ならびに実用化が行われています。電磁気的な手法は,配管の中にアクセスできる小さいプローブの中にセンサを実装でき,非接触で検査が可能な数少ない手法です。従来より渦電流探傷が検査の主体であり,一般的な手法として非破壊検査技術者の技量認定試験としても用いられています。それらの手法も試験コイルなどのハードウェアや信号処理などのソフトウェアの高精度化が図られ,さらに渦電流だけでなく他の電磁気的な手法を応用した検査技術の開発が進んでいます。
 今回の特集では主に小径の配管を対象とし,また検査の中でも電磁気に限定してはいますが,最新の研究開発の事例や実機への適用,さらに探傷機器などについて紹介しています。配管検査に従事されている方は勿論のこと,そうでない方もぜひ参考にしていただきたいと思います。
 なお今回,お忙しいなか快く執筆いただきました先生や企業の方々,ならびに編集にご協力いただきました皆様には,この誌面を借りて深くお礼を申し上げ,巻頭の言葉とさせていただきます。

 

解説

電磁気応用による配管の保守検査技術

磁束抵抗法による炭素鋼管の保守検査技術
住友化学(株) 末次秀彦 多田豊和

Maintenance Inspection Technology of Carbon Steel Tubes by Magnetic
Flux Resistance

Sumitomo Chemical Co., Ltd. Hidehiko SUETSUGU and Toyokazu TADA

キーワード:腐食,保守,炭素鋼,チューブ,磁束,磁気抵抗

はじめに
 化学プラントでは冷却水(淡水)を用いてプロセス流体等を冷却する炭素鋼製多管式熱交換器が多数使用されているが,伝熱管の冷却水側から孔食状の腐食(図1)が発生し,最終的には貫通して漏れに至るケースもある。これを抑制するためには,設計段階,運転段階および検査・診断段階において様々な注意が必要である。設計段階では熱交換器の設置方向(竪型,横型),冷却水の流路(管内・管外),流速,温度等について検討される。また,運転段階では冷却水水質の管理値を定めて継続的に監視するとともに,冷却水の流速の確保に努めている。そして検査・診断の段階では開放検査において錆の発生状況や付着物の状況を目視で確認するとともに,検査周期を定めて伝熱管の肉厚測定を行い,漏れに至るまでの寿命の予測,漏れた場合のリスク等を評価して,熱交換器の次回検査時期や更新時期を決定している。
 炭素鋼製熱交換器伝熱管の肉厚測定方法としては,水浸回転式超音波厚さ測定法(IRIS:Internal Rotary Inspection System)が世界の主流検査技術として適用されている。これは± 0.1mm という従来の検査診断技術の中で最も高い肉厚測定精度を有しているためである。一方で1 日あたりの検査本数が100 本程度と少なく抜取検査にならざるを得ない。よって,その後の保全判断を行う場合には,抜取検査の測定値を全体の代表値として用いるか,あるいは極値統計法を組み合わせて最大腐食減肉量の推定値を用いている。
 このような中で,各企業ではプラントの操業差損をできるだけ低減するために機器開放検査周期の適正設定と延長を検討しながら,同時に定期検査に要する期間の短縮も検討している。このように,これまで以上に網羅性を高めながら,精度の高い検査・診断を実施することが必要となっており,検査技術に対しても,測定精度と測定速度との高い次元での両立が強く望まれている。
 当社では十数年前より銅合金,オーステナイト系ステンレス鋼,チタンなどの非磁性管の保守検査で採用されている渦電流探傷試験と同等の検査速度を有した炭素鋼管の検査技術として,主に電磁気現象に注目して技術開発を続けてきた。その結果,磁束抵抗法(MFR:Magnetic Flux Resistance)という新しい概念の検査技術の開発に成功した1),2)。現在,社内プラントの検査へ積極的に活用を進めるとともに,社外への技術ライセンスを進めているところである。本稿ではMFRの原理や特徴について紹介する。

 

ハイブリッド型ECT による高速炉の伝熱管検査技術開発
(国研)日本原子力研究開発機構 山口 智彦  ミハラケ オビデウ

Development of a Hybrid ECT Sensor for Fast Reactor Steam Generator
Tube Inspection

Japan Atomic Energy Agency (JAEA) Toshihiko YAMAGUCHI and Ovidiu MIHALACHE

キーワード:高速炉,伝熱管,ハイブリッド型ECT,疲労き裂,サポートプレート

はじめに
 ナトリウム冷却高速炉(以下,高速炉)サイクル技術は,長期のエネルギー安全保障と環境問題に対し,核燃料をリサイクルすることで,ウランの利用効率を飛躍的に高め,エネルギー輸入依存度の改善に大きく貢献できる可能性を持っている。核分裂を起こすウラン235 は,天然ウランの中にわずか0.7%しか含まれておらず,残りの99.3%は核分裂を起こさないウラン238 である。このウラン238 に中性子を吸収させると,核燃料となるプルトニウム239 に変わり利用できるためである。また,使用済核燃料に含まれる長寿命核種であるマイナーアクチニド(MA)を高速炉サイクルでリサイクルすることで,放射性廃棄物の低減を期待できる。高速炉では,炉心から効率よく熱を取り出せ,かつ高速中性子を減速させない冷却材として,液体金属ナトリウム(Na)が用いられている。
 高速炉も基本的な発電の仕組みは軽水炉や火力発電所と同様で,原子炉で発生した熱はナトリウムに伝えられ,蒸気発生器の中の伝熱管を介して,発電機を回す蒸気に伝えられる。ナトリウムは,化学的に活性であり,空気中で燃焼,水とは激しく反応する特徴を持つ。伝熱管の内側には水・蒸気が,外側にはナトリウムが流れる構造となっており,水とナトリウムが直接接触しないように伝熱管の構造健全性の確保が重要となる。
 このような背景から高速炉の蒸気発生器伝熱管検査に適用できる高感度の内挿型センサ技術の研究開発が進められてきた。

 

配管の保守検査に用いられている最近の渦電流探傷器
ACTUNI(株) 手塚武夫 小原史郎

Recent Eddy Current Flaw Detector for Maintenance Inspection of Heat
Exchanger Tubes

ACTUNI Co., Ltd. Takeo TEZUKA and Shiro OHARA

キーワード:保守検査,渦電流探傷試験,多重周波数試験法

はじめに
 蒸気発生器や復水器などの熱交換用伝熱管の保守検査には,非接触で高速に検査が可能な内挿プローブによる渦電流探傷試験が多く用いられている。この検査法では対象とする伝熱管や検出するきずにより様々なプローブや信号処理方法がユーザにより開発されている。今では多重周波数試験法が主流であり,一般的な2 重周波数に加えて3 重周波数も用いられる。
 試験コイルも一つだけでなく,複数持つプローブも開発されており,探傷器にはこれらへの対応が要求される。また,検査対象となる伝熱管の数は1000 本になることも多いが,顧客の設備の定修時間の短縮要望も強く,短時間での検査が要求される。そのため,高効率な検査を支援する上でも操作性の向上や,信号解析機能も探傷器には求められる。
 また,検査結果を担保する上で,探傷装置の信頼性の確保も重要な課題である。渦電流探傷試験に関する規格として,我が国では2014 年にJIS Z 2316「非破壊検査−渦電流試験−」が制定され,このうち,第2 部に「渦電流試験器の特性及び検証」として探傷器を含めた渦電流試験器の個別性能の測定方法が記されている。また,規格の中に渦電流試験器の電磁両立性(EMC)規則の適合が求められている。
 ここで紹介するEddy Station MWⅢ型は,近年発売した探傷器であり,電磁両立性規則に適合しており,その特徴はユーザによる多様な使い方に対応する多機能性を有している。また,当社ではJIS 規格に沿った性能試験が迅速に行える環境を整備している。本稿では探傷器の概要と渦電流試験器の特性試験と管理を目的とする自動校正装置を紹介する。

 

発電設備における検査技術の実機適用について
非破壊検査(株) 山邉正太 笹井明日香

Actual Application of Inspections Techniques to Power Generation Facilities
Non-Destructive Inspection Co., Ltd. Shota YAMABE and Asuka SASAI

キーワード:渦電流探傷試験,保守検査,伝熱管 ,プローブ,溶接部,溝状腐食,高温硫化腐食

はじめに
 近年の働き方改革において,各業界を取り巻く環境はIoTやAI を用いた省力化等の大きな変革を求められている。このような背景の下,大量生産品の製品検査や保守検査において幅広く利用されている渦電流探傷試験は,この検査手法が有する「高速かつ非接触な試験が可能」,「電子データとして取り込むことが可能」等の長所を生かし,非破壊検査の省力化に向けた技術開発が進められている。また渦電流探傷試験では,配管等の内部に挿入して用いる内挿プローブ,プローブ内に試験体を通過させる貫通プローブ,ペンシル型に代表される試験体の表面に用いる上置プローブ等,適用対象に応じて多岐にわたるプローブを試験に使用する。 特に上置プローブにおいては一様渦電流プローブ,シータプローブ,プラスポイントプローブ等多くの製品が開発されており,プローブ特性に応じて適用されている。このようなプローブの種類の多さからも,他の表面探傷試験として挙げられる浸透探傷試験及び磁気探傷試験の代替手法として注目されている試験技術である。発電設備における渦電流探傷試験は,1950 年代頃から,熱交換器の細管等に内挿プローブを用いた試験が用いられている1)。また,航空機産業においては,上置プローブによるファスナホールの疲労割れ検出を目的とした事例が多数あり,各産業界において各々の渦電流探傷試験の広がりや歴史を有している。さらに,海外においては,従来の渦電流探傷試験よりきずの検出精度を向上させた渦電流探傷アレイ技術 Eddy Current Array( 以下 ECA)や高性能パルスET の試験装置の商品開発が進んでおり2),表面探傷試験の中では最も時代のニーズに即した未来志向な技術であると言える。
 筆者らは,渦流探傷試験の上置プローブを用いて,強磁性体のボイラ管に対する健全性評価のためのプローブ開発,展開を行っている。発電設備におけるボイラ管はボイラを構成する重要機器の一つであり,高温下で使用されるため,ボイラ管の管外表面には硫化腐食や溝状腐食(ファイヤークラック,エレファントクラック,エレファントスキン等と呼ばれている)が発生し,ボイラ管の破孔・破損の事故へと至る。この腐食を破損前に検出し対処することが機器の管理として重要である。このボイラ管の管外表面への検査手法としては,目視試験及び磁気探傷試験が行われている。これらの試験は,試験前に,表面に付着したクリンカ(燃焼灰等の付着)や硬質スケールを除去する必要があり,前処理としてブラスト処理が実施されている。このため,ブラスト処理を行うことによる工程面やコスト面に課題があり,検査範囲を限定した抜き取り検査を行うことが多く,全体的な腐食分布状況の把握が困難である。さらに得られる情報は溝状腐食の有無であり,溝状腐食深さについては別途計測する必要がある。筆者らは,工程面,コスト面の課題を解決するため,強磁性体のボイラ管に対する渦電流探傷試験としてFerromagnetic Surface Eddy Current Testing の頭文字を取りFSECT と命名した技術を開発した。FSECT によるスクリーニング検査を実施し,従来の磁気探傷試験を併用することにより,ボイラ管の腐食評価は効率的に省力化が図れた。
 本稿では,FSECT 及びECA,パルスET の新しい装置の発電設備への適用事例を紹介する。

 

強磁性体鋼管の電磁非破壊検査技術
大分大学 後藤雄治

Electromagnetism Non-destructive Testing of Ferromagnetic-material Steel Pipes
Oita University Yuji GOTOH

キーワード:強磁性鋼管,電磁気検査,熱交換機,支持鋼板,外面欠陥,非線形解析

はじめに
 火力発電所や石油化学プラントをはじめとした各種プラントの熱交換器には強磁性鋼管による多管式が広く用いられており,プラントの健全性を保つために定期的な検査が実施されている。これらの強磁性鋼管は,外面からの欠陥の発生が多く報告されている。この要因として,鋼管を束ねる支持鋼板(バッフル)との摩擦や不純物堆積による腐食が挙げられる。一般的に電磁現象を利用した管の検査には渦電流探傷試験法(ECT)が用いられている。しかし,強磁性鋼管に内挿型のECT を適用した場合,透磁率が大きな導体に渦電流が流れることにより,磁束が鋼管の表層に集中するため鋼管の内表面欠陥に限定した検査にしか適用できない。これを克服するために,パルス磁化ECT や多重周波数を用いたECT,リモートフィールド渦電流探傷試験法(RFECT)等が検討されている1)−3)。しかし,パルス磁化ECT や多重周波数を用いたECT は一部適用例があるが,厳密な探傷原理の解明が行われておらず,また,検出信号の処理が難しい。RFECT はバッフルの影響を強く受けることや,鋼管の材質によって励磁コイルと検出コイルの間隔を微調整する必要がある4)。本稿では,励磁コイルと検出コイルが一体となった検査プローブを用い,これらの手法に代わる強磁性鋼管の外面に存在する欠陥を評価する3 手法について解説する。

 

ECT によるボイラ管内面腐食減肉部の高効率検査技術の開発
三菱重工業(株) 浦田幹康 山口岳彦 神納健太郎
三菱日立パワーシステムズ(株) 浦田直矢

Development of ECT Inspection Technology for Boiler Tube Inner Surface
Corrosion Detection

Mitsubishi Heavy Industries, Ltd. Mikiyasu URATA, Takehiko YAMAGUCHI and Kentaro JINNO
Mitsubishi Hitachi Power Systems, Ltd. Naoya URATA

キーワード:渦電流探傷試験,コイル,腐食,欠陥寸法,可視化

はじめに
 火力発電プラントにおけるボイラ伝熱管では,アルカリ腐食等(図1)による管内面側の腐食減肉の発生が懸念される。しかし,ボイラ伝熱管は各々密集して管群を形成しているため,検査を要する部位へ容易にアクセスできない場合が多い。ボイラ伝熱管の連続肉厚測定技術として超音波水浸法を用いた管内挿式超音波肉厚計測技術1)の適用が一般的であるが,腐食反応により生成したスケールの影響により検出困難である。また,フィン付管は管外面から検査することも不可能である。このようなことから,ボイラ伝熱管内面に発生する腐食減肉について,腐食に伴って生成したスケールの影響を受けず,かつ管全長・全周を検査する技術として,ECT(Eddy Current Testing:渦電流探傷試験)の適用を検討した。
 本稿では,電磁場シミュレーションに基づき開発したECTプローブと検査システム,ならびに実機ボイラ伝熱管の検査を行い,アルカリ腐食減肉の検出性と検査システムの実用性を検証した結果について述べる。

 

     
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