機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2004年9月度

巻頭言

「非破壊試験のための鉄筋コンクリート概論」特集号刊行にあたって  

   本特集の企画に際し,はじめに筆者がコンクリート構造物への非破壊試験の適用に取り組んだときの経験を紹介します。
 一つ目は,筆者が最初に,超音波を用いてコンクリート舗装版の厚さを求めることに挑戦したときのことです。そもそも,厚さを求めるには反射波の往復時間 とコンクリートを伝搬する音速が必要ですが,このときは音速を測定する方法がなく,厚さを求めることはできませんでした。
 そこで,音速の求め方を検討しました。透過法が使えないので(実験によっては透過法による音速を用いて厚さを求めている例もありますが,透過法で測定で きるような構造物は非破壊で厚さを求める必要はありません),同一平面内に探触子を配置してコンクリートの音速を求めようとしました。ところが,探触子間 隔を変化させると音速も変化し,どの距離のときの音速を使えばいいのかわかりませんでした。その後,いろいろ検討してみると,コンクリート内部の音速は, 表面は遅く内部は速いためだということがわかりました。コンクリートの品質を考えると,一般に表面付近の品質は内部より低いので当然の結果だと考えられま す。このようなコンクリート品質の特性を考慮して音速を求めなければならないことがわかりました1)。
 二つ目は,電磁波レーダを用いて鉄筋のかぶり厚さを求める場合です。この場合も,反射波の往復時間とコンクリートを伝搬する電磁波速度が必要です。とこ ろが,これまではコンクリートをはつり,かぶり厚さを直接測定して電磁波速度を求める方法しかありませんでした。これでは非破壊試験にはなりません。条件 が異なればその都度電磁波速度を確認する必要があるため,至る所をはつらなければならず,現実的ではありません。
 そこで電磁波速度を非破壊で求めるために,コンクリート内を伝搬する電磁波の特性について検討しました。電磁波速度は水の影響を強く受けるといわれてお り,実際にコンクリート内部の含水率と電磁波速度の関係を求めました。この関係を用いると精度良くかぶり厚さを求めることができました1)。ところが,含 水率分布を求めることも大変な労力が必要であり現実的ではありません。どのように電磁波速度を求めるのかが重要な課題として残っています。
 こうしたエピソードでもおわかりのように,コンクリートに非破壊試験を適用するには,コンクリートの品質と適用する試験方法の特性を知った上でさまざまな工夫をしなければならないのです。
 そこで,本特集では,鉄筋コンクリート構造物への非破壊試験の適用に当たり,知っておくべき基礎的事項を整理することにしました。
 鉄筋コンクリート構造物の非破壊試験には,強度や部材厚さなど主に弾性波を用いる方法と,鉄筋のかぶり厚さ,鉄筋の腐食状態を調査するときなどは電磁波 や電気的な方法を用いる場合が多くあります。そのため今回の特集では,非破壊試験に影響を与えるコンクリートの品質に関する基本的な事項と,その品質が弾 性波の伝搬特性や,電気的特性にどのような影響を及ぼすのかにスポットを当てて,前半の2編では,?鉄筋コンクリートはどんなものか,?使用材料からコン クリートが固まってどんな組織になっていくのか,?時間経過,立地条件などによる鉄筋コンクリートの劣化要因に関する解説にあてました。
 後半の2編では,コンクリートの品質が弾性波の伝搬特性,電気的特性がどのように変化し,非破壊試験にどのような影響を及ぼすのかを解説します。
 なお,本特集の内容は広範囲な内容を短く,わかりやすく解説いただくため,多少理論的に厳密さを欠く場合や,重複部分があると思います。本解説をお読み いただき,より詳しいことを知りたいときに専門書をご覧いただくきっかけになればと思います。また,コンクリートの特性を知った上で非破壊試験を適用する ことが,コンクリート分野の非破壊試験の発展につながるものと期待しています。
1) 本誌Vol.52(2003年)のNo.9とNo.12「非破壊試験によるコンクリート品質,部材厚さ,鉄筋かぶり・径の計測に関する研究」の第1報,第2報をご参照ください。

*特集号編集担当 森濱 和正

 

解説 非破壊試験のための鉄筋コンクリート概論

鉄筋コンクリートとは
   野崎 喜嗣 武蔵工業大学工学部建築学科

An Outline of Reinforced Concrete
Yoshitsugu NOZAKI Musashi Instisute of Technology
キーワード 鉄筋コンクリート,コンクリート,鉄筋,基本的性質,非破壊試験,劣化現象



1. はじめに
 鉄筋コンクリートとは,文字どうり鉄筋で補強したコンクリートであり,耐久性,耐火性及び経済性に優れ,最も代表的な建設材料で,RC : REINFORCED CONCRETE と呼称される。
 コンクリートは,圧縮強度に比べて引張強度は,およそ1/10 と小さく,いわゆる脆(もろ)い材料である。一方鉄筋は,引張りには強いが,火熱に弱く,また錆やすいといった問題がある。しかし,両者を組み合わせるこ とにより,お互いの欠点をカバーしあう合理的な構造材料を実現することができた。
 しかし,コンクリートは施工作業の良否で品質が大きく影響を受け,また経年による劣化や,凍害,火災などの過酷条件下で品質変化が生じてくる。良い構造 物を作り,またできるだけ長く使うために,施工時及びその後品質を,把握することの重要性が指摘されている。既存構造物の品質推定あるいは診断には,一般 的にコア供試体を採取して破壊検査が行われている。非破壊試験を用いることができれば,維持管理を効果的に運用できることは知られているが,現状はまだ充 分な状況とは言いがたい。
 本稿は,RC構造物への非破壊試験を正しく適用することを目標として,ここではその基本的事項について,記述したものである。

 

 

非(微)破壊試験のための構造体コンクリートの物性解説
   湯浅  昇 日本大学生産工学部

Explanation of Physical Properties of Structural Concrete for
Non- and Mini-destructive Testing Methods
Noboru YUASA College of Industrial Technology, Nihon University
キーワード コンクリート,非破壊試験,微破壊試験,含水率,細孔構造,物性



1. はじめに
 構造体コンクリートの非破壊及び微破壊試験の多くは,求めようとする強度等の品質をその品質に関連深い他のコンクリートの物性を測定することにより類推 するものである。しかしながら,間接的であるがため,多くの場合,妨害要因が存在する。最も問題となるのは,「コンクリート中の水分」であろう。しかしな がら,この水分の把握がまた困難である。
 コンクリートは均質でない。センチメートルオーダーで表層から内部にわたり不均質性がみられる。まず,含水率が異なる。1cm層が変われば3%異なるこ ともある。これにより,また組織も相違することになる。水セメント比20%の差に匹敵する組織の差が5cmの層の違いでみられると訴えることは,決して誇 大な指摘ではない。
 本稿は,非(微)破壊試験を行うにあたり,試験者がこれらの問題に対し,参考として頂きたく,?コンクリートの水和と組織の緻密化,?コンクリート組織 と強度,耐久性,?コンクリートの乾燥と含水率,?コンクリート組織の不均質性を項立てし,解説するものである。
 構造体コンクリートの実像を理解して頂けるよう記述したつもりである。建築・土木・セメント化学を学ばれた方には,多少くどいように思うが,コンクリートが全く専門ではない非破壊検査技術者に,特に役立って頂ければ本望である。

 

コンクリートの電気的特性
   久田  真 独立行政法人 土木研究所


Electric Properties of Concrete and Reinforced Concrete
Makoto HISADA Public Works Research Institute
  キーワード コンクリート,電気回路モデル,インピーダンス特性,比抵抗,比誘電率,含水率



1. はじめに
 コンクリートを構成する基本となる材料は水,セメント,細骨材(砂)および粗骨材(砂利)であるが,固体材料であるセメントの平均粒径は数十mm,細骨 材が数mmであり,粗骨材が数十mmである。また,コンクリートを製造する際に使用される水のうち,セメントの水和反応により水和物として固相となる量は 限られており,その大半は硬化後も液相として存在し,コンクリート中に10〜15%程度の空隙を形成する。この空隙は,完全に乾燥しているものもあれば, 残留水分(細孔溶液という)で満たされているもの,またこれらの中間にあるものなど様々であり,残留水分中には,ナトリウムイオン(Na+)やカリウムイ オン(K+)などの,主にセメントから供給される各種イオンが含まれている。
 さらに,コンクリート工事の施工性を確保するために,コンクリート製造時には界面活性剤を主成分とする空気連行剤(AE剤:Air Entrained Agent)が投入され,粒径として数十〜数百mm程度の微細な気泡を導入することが一般的に行われている。このように導入された微細な気泡の大半は,コ ンクリートが硬化した後もそのまま残留し,細孔溶液を含んだ,あるいは含まない状態で,硬化体内部の空隙を形成することとなる。
 すなわち,硬化したコンクリート内部は,数mmから数十mmといった極めて広範囲な粒径の材料が3次元的に不規則に配列し,セメントは長い時間にわたっ て水和反応を継続し,微細組織を経時的に変質させ,水和反応に関わらない水分は,日照による蒸発と降雨による再浸透を繰り返している。また,コンクリート は,構成材料である水,セメント,細骨材および粗骨材の混合比率(配合または調合という)を,要求される品質に応じて多様に製造することが可能であり,先 に述べた複雑な状況はより一層複雑なものとなっている。さらに,コンクリートは,様々な気象作用によって内部水分の蒸発散のみならず,セメント水和物や骨 材を変化させる性質も併せ持っているのである。
 このような極めて複雑な混合材料系であることは,コンクリートが物性物理学的な基本性能を一般化して評価し難い材料であり,金属材料と比較して,その電 気的性質を把握することが極めて困難な材料であるといえよう。しかしながら,コンクリートの電気的性質は,特に非破壊試験を適用する場合には適切に把握さ れるべき重要な物性であり,これに関する既往の知見を整理することは,今後の研究において意義のあることである。
 以上を鑑み,本稿では,硬化コンクリートの電気的性質を把握することを試みたこれまでの知見を概観し,電磁気を利用した非破壊試験に影響を与えるコンクリートに関する各種の要因をまとめた。

 

コンクリートにおける弾性波の伝播特性について
   鎌田 敏郎 岐阜大学工学部


Characteristics of Elastic Wave Propagation in Concrete
Toshiro KAMADA Gifu University
  キーワード コンクリート,弾性波,超音波,弾性波伝播速度,周波数特性



1. はじめに
 金属材料では,ほんの数ミリのオーダーのきずの寸法を超音波で推定できるのに,なぜコンクリートではそれができないのか? 胎児の性別が超音波エコーでわかる時代に,同じ方法を使ってもコンクリート中の空洞の形状すら十分につかめないのはなぜなのか?
 著者は,これまで,多くの一般の方々からこのような質問を受けてきた。そして,その都度“金属材料や医療の場合と比較して,弾性波を使ったコンクリートの非破壊試験が格段に難しい理由”について答えなければならなかった。
 そこで本稿では,上記の経験を踏まえて,コンクリート中での弾性波伝播の特性をまとめることにより「なぜコンクリートでは難しいのか?」について述べることとする。
 一方で,コンクリート中での弾性波挙動には,金属材料等の他の材料にはみられない特有のものもあり,逆にこれらの特性を利用してコンクリートの品質や欠陥を評価することが可能である場合もある。これについても本稿では,あわせて解説することとした。
 具体的には,まず,コンクリート材料自体の特徴と弾性波伝播挙動との関連について述べる。続いて,コンクリート中での弾性波の伝播挙動に影響を与える要 因について示す。さらに,それぞれの項目ごとに,弾性波挙動の特徴について事例を紹介しながら解説を加える。なお,本稿では,コンクリート構造物の非破壊 試験に適用可能な弾性波のうち,周波数範囲がおおむね超音波領域にあるものを念頭において記述することを申し添える。

 

連載講座

ステンレス鋼の種類と溶接について
   丸山 敏治 (株)神戸製鉄所 溶接カンパニー技術開発部


Kinds of Stainless Steel and Welding Defects
Toshiharu MARUYAMA Technical Development Dept. Welding Co. KOBE STEEL, LTD.
キーワード ステンレス鋼,応力腐食割れ,凝固偏析,s相脆化,ウェルドディケイ,ナイフラインアタック



1. はじめに
 ステンレス鋼とは,文字通り「錆びない(stainless)」鋼であり,Feに約11mass%(以下%と表記)以上のCrを合金化することによって 耐食性を高めた鋼である1)。ステンレス鋼の耐食性は,鋼の表面に酸素とCrが結合した極めて薄くてかつ均一・ち密な「不働態皮膜」とよばれる皮膜が形成 されることによって実現されている。鋼にCrを合金化すると,耐食性だけではなく耐熱性も向上するためステンレス鋼は耐熱用途にも使用されている。
 ステンレス鋼の始まりは19世紀にKrupp社で工業製品化されたものが原型とされ2),その後の製鋼・熱間加工技術の進歩とともに使用環境・用途目的 に応じて機械的性能や耐食性の改善が進められ,各種ステンレス鋼が開発されて現在に至っている。その過程の中で溶接技術の進歩も著しく,現在では多くの種 類のステンレス鋼が溶接構造物に適用されている。

 

 

論文

力学特性に関する研究
   浅野 茂信/江角  務/蜂谷 将史

Characteristics of the Dynamics of Osteoarthritis Treatment
Using the Photoelastic Method
higenobu ASANO*, Tsutomu EZUMI** and Masashi HACHIYA***
Abstract
Because of the aging population, the rate of people who show symptoms of gonarthrosis has increased in recent years this group. The proportion of individuals with osteoarthritis is the largest among them. Fibula excision is one method used to treat these symptoms. However, the exact position and quantity of fibula to be excised depend solely upon the doctor's experience and intuition at the time of operation; at the present time there is no clear way of determining these factors. In view of the possibility of excessive burden on the human body, there is an urgent need to determine the stress distribution state of the periphery of the knee joint after the operation. Thus, using the stress freezing method, we examined this stress distribution state by changing the position and quantity of fibula to be excised. Analyzing the influence of the fibula that is present around the knee joint using this state, it was concluded that the fibula excision method is effective in improving the condition of osteoarthritis.



1. 緒言
 近年,高齢者の増加に伴い老化による人体の衰えからくる下肢三関節(股関節,膝関節,足関節)症を発症する人の割合が増加傾向にある。特に変形性膝関節 症の内側型(O脚)は最も患者数が多く,膝関節間にある軟骨の擦り減りにより痛みが生じる疾患であり,歩けないほどの痛みを伴う場合もある。主な要因とし て,加齢による筋力の低下や肥満などが相乗して膝の内側に応力集中が発生し,軟骨が擦り減ると考えられている。
 変形性膝関節症において,症状が軽い場合は保存療法を適用するが,症状が高度になると骨切りによる矯正骨切り術1)−3)を施す。この骨切り術は内側型 に適用され,外側型では主として保存療法が適用される。内側型の症状を改善させる最も代表的な骨切り術は,高位脛骨骨切り術および人工関節置換術である が,本研究ではこれらより簡易的に内側型の膝の痛みを取り除く手段である腓骨骨切り術について着目した。腓骨骨切り術はFig.1に示すように,腓骨骨幹 中央部で約3cmを部分切除することで,FTA(Femorotibial angle) または下肢のアライメントを補正する手術法である。しかし,手術の際に腓骨を切除する位置や量は,医師の経験や勘に頼っているのが現状である。下肢の力学 的特性に関する報告4)−11)が多い中,変形性膝関節症の腓骨切り術後の力学的特性に関する報告はなく,手術後の力学的影響はいまだ解明されていない。 そのため骨切り術では骨を切除する部位で人体へ余計な負担がある可能性が考えられることから,手術後の力学的影響を解明することは急務である。
 さらに,変形性膝関節症は,半月板が擦り減り膝に痛みを伴う症状であることから,膝関節において半月板の影響を知る事は大変重要である。そこで本研究で は,腓骨骨切り術について,手術前後の膝関節周辺における応力分布状態の解析と,半月板の材質を変化させた場合の膝関節周辺の応力分布状態を光弾性応力凍 結法を用いて行った。それにより,変形性膝関節症における腓骨骨切り術の有効性と半月板の重要性を検討した。

原稿受付:平成15年12月25日
 芝浦工業大学大学院(東京都港区芝浦3-9-14)Graduate School of Engineering, Shibaura Institute of Technology
 芝浦工業大学(東京都港区芝浦3-9-14)Shibaura Institute of Technology
 横浜南共済病院(神奈川県横浜市金沢区六浦東1-21-1)Yokohama Minami Kyousai Hospital

 

鋼板の反発を利用した厚さ測定法の検討(第2報)−インパルスハンマによる方法−
   島田 道男/吉井 徳治/成瀬  健

Thickness Measuring Technique Based on Repulsion Behavior of Steel Plates (second report) - Impulse Hammer Method -
Michio SHIMADA*, Tokuharu YOSHII* and Takeshi NARUSE*
Abstract
The author describes a position identification technique for tunneling machines. A three-dimensional flux measurement system is presented to conduct a remote search for the head of a tunneling machine. A transmitter is installed in the machine head, which generates a low-frequency magnetic field. A receiver, placed on the ground above the machine, accurately detects the magnetic flux. An instantaneous estimation algorithm is proposed to locate the transmitter position by evaluating three-dimensional distribution of the flux density. The estimation procedure is formulated in detail, and exemplified by concrete measurement data. A prototype measurement system is designed and manufactured to install in the tunneling machine. The receiver is equipped with a newly developed 1.3-mm-thick magnetometer which is smaller and lighter than a conventional wired coil sensor. The resolution of the magnetometer is less than 10 nT, and is more sensitive than a Hall element. Experimental results show that this system can estimate the position of a transmitter placed 5 m below it with an accuracy of about 10 mm. The measurement system was actually applied to construction of a tunnel and showed its successful performance.
Key Words Magnetic flux measurement, Position identification, Magnetometer, Electromagnetic induction,Tunneling machine



1. 緒言
 通信ケーブル・上下水道・ガス・電力などの管埋設工事において,パイプラインの多層化に伴う大深度敷設の要求,騒音・振動の抑制,工事の安全性確保など のため開削工法に代わってトンネル工法が広く用いられるようになっており,たとえば通信ケーブルだけを単独で収容するための口径1m以下のトンネル掘削装 置が開発されている1)。 
 この工法では操縦者は事前に設計された計画ルートの水平・垂直基準線に沿って掘削装置を制御してトンネル工事を遂行する。許容制御誤差は通信用トンネル の場合200mm程度,上下水道用ではその十分の一といわれている。このような高精度の制御性能は掘削装置先端の現在位置の情報精度に大きく依存する 2)。
 いわゆる位置計測技術は数多く存在するが,トンネル工事に関しては測定対象が地下にあるという条件のため,たとえばGPSのように地上では実績のある方 法が適用できない。また,鉄道用トンネルのように口径が大きい掘削装置の場合には装置内にいろいろな計測器を自由に配置することができるが,限られたス ペースしか許されない小口径管装置では計測方法も限定されてくる。
 掘削装置の位置は,掘削距離・深さ・計画ルートに対する左右のずれの3つの要素を持つ。掘削距離は埋設管の押し込み量から推計可能であり,深さについて は地表と掘削位置の重力差を検出する液圧差計測器などにより精密に評価できる。計画ルートに対する左右のずれを計測する最も簡易な方法は,掘削装置先端の 制御量からトンネルの屈曲を幾何学的に計算することであるが,ステアリング角度が必ずしもトンネル屈曲角度とは一致しないなど計算精度上の問題がある。機 械式や光学式ジャイロを搭載して進行角度を逐次計測する方法もあるが,掘削装置の移動が時速5〜10mと極端に遅いため温度ドリフトなどが誤差要因として 強く影響する3)。いずれの方法も角度や角速度の積分計算を伴うため掘削が長距離になるほど誤差が累積する欠点がある。
 積分計算を行わず掘削位置を直接計測する手段として現在よく採用されているのはレーザターゲット方式である4)。これは掘削開始位置にレーザ発光器を固 定し,レーザビームを掘削装置先端に搭載した受光装置に当ててその位置のずれから計画ルートに対する変位量を測定するものである。これまでトンネル掘削装 置は直線経路を対象としたため,レーザビームを掘削装置内の狭い空間を通して測定することができた。しかし最近のトンネル工事では,道路の曲線に合わせ る・障害物を避ける・経済性を向上させるなどの理由から,曲線状の経路を設定してトンネルを掘削することが多くなっている。曲率半径の小さなトンネルにお いては直進するレーザビームが掘削装置先端まで到達しないためレーザターゲット方式が適用できない。
 代替手段として,掘削装置先端と地上にそれぞれ送信機

原稿受付:平成15年9月10日
 NTTアクセスサービスシステム研究所NTT Access Network Service Systems Laboratories

 

     
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