機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2006年9月度

巻頭言

「火力発電設備の配管減肉管理と非破壊検査」特集号刊行にあたって 

2年前の8月に発生した関西電力美浜原子力発電所の給水系統の配管破断事故は惨事に至った。まだ記憶に新しいことである。この事故は,長年の間に配管内壁 でエロージョン/コロージョンによる局部的な減肉が進み,配管の断面積の減少量が限界に達して引き起こされた。このような配管減肉は,事故の起こった部位 では予想された現象であり,当然,定期検査等によって安全確認がなされるべきであったと考えられる。それにもかかわらず電力会社ならびに検査会社がその検 査を怠っていたことが明るみに出て,社会にさらに大きな衝撃を与えることになった。そして,配管減肉の管理方法が,原子力発電設備ばかりでなく,火力発電 設備においても注目されることとなった。
 これを契機に,(社)日本機械学会では,発電設備のための配管減肉管理規格を策定する作業を始め,2005年には性能規定化規格として「配管減肉管理に 関する規格」を発行し,続いて今年の4月には,その具体的な技術内容を規定する「火力設備配管減肉管理技術規格」を発行している。この技術規格の中では, 減肉の検査法として, JIS規格である「超音波パルス反射法による厚さ測定方法(JIS Z 2355)」を用いることを規定しているが,その他に,4つの非破壊検査法が管理者の責任で適用可能なことを定めている。その検査法とは,“放射線透過画 像検査による試験方法”,“パルス渦流法によるスクリーニング試験方法”,“電位差法による試験方法”および“3次元超音波検査法による試験方法”であ る。いずれも,超音波パルス反射法にはない優れた特徴を有しており,減肉管理の有効なツールになると期待されている。一方,(社)日本非破壊検査協会で は,電場計測非破壊評価研究会を中心に「電位差法による厚さ及びき裂測定方法」の協会規格の策定が始められている。
 これらの一連の動向と関連する非破壊検査技術は,非破壊検査に関わる技術者および研究者にとって関心が高いことと考え,本特集号を企画した次第である。本特集は5編の解説記事を集めた。
 まず,はじめの解説は,上述した機械学会規格の概要と規格策定の過程について書いている。近年,国の規格は性能規格化する方向にあるが,この規格もその 流れに同調した基本方針で策定された。そのように策定された規格の特徴と意義が丁寧に解説されている。
 次の記事では,配管減肉現象のメカニズムであるエロージョン/コロージョンについて基本的な解説がなされる。エロージョン/コロージョンは複雑な現象で あり未解明の点を残していることが説かれ,それ故,減肉の非破壊検査が重要であるとまとめられている。加えて,執筆者が取り組んでいる音響衝撃法による配 管減肉検査の研究が紹介されている。
 続く3つの解説は,機械学会規格で規定されている4つの検査法の内の3つに関して書かれている。“放射線画像処理法”,“3次元超音波検査装置による方 法”および“電位差法”である。それぞれの方法による配管減肉の検査方法と適用事例などが解説されている。電位差法の解説では,さらに,日本非破壊検査協 会規格の策定に向けた作業の進行状況が紹介されている。
 本特集号が会員の皆様にとってよい参考となり,お役に立てば幸いである。最後に,本特集の主旨をご理解いただき,お忙しい中,原稿を書いていただいた執筆者の方々には,この紙面をお借りして厚く御礼申し上げます。

*特集号編集担当 小島 隆

 

解説 火力発電設備の配管減肉管理と非破壊検査

配管減肉管理に関わる規格作りの動向
    西口 磯春 神奈川工科大学  浜田 晴一 東京電力(株) 

Current Situation of Rules on Pipe Wall Thinning Management

Isoharu NISHIGUCHI Kanagawa Institute of Technology
and Seiichi HAMADA Tokyo Electric Power Company

キーワード 配管減肉,非破壊検査,健全性評価,国際規格,安全性 



  1. はじめに
 火力発電所等の発電用設備用の規格を取り巻く状況は,過去,約10年で大きく変化している。その契機の1つとなったのは,1995年に発効した世界貿易 機構(WTO)のTBT協定(貿易 の技術的障害に関する協定)である。この協定では,加盟国に対して,工業製品等に関し,国際規格の採用,規格制定プロセスの透明性確保,内外無差別原則等 を義務づけている。そのための基本方針の1つが,第2条中の次の一節に示されている。
 Wherever appropriate, Members shall specify technical regulations based on product requirements in terms of performance rather than design or descriptive characteristics.
 すなわち,国が定める規格は具体的な設計あるいは記述的な表現よりも,そのプロダクトの機能あるいは性能に対する要求を示した強制規格を定めることを求めている。
 従来の仕様をベースとした規格を,このような考えに基づく規格に変更することを,「性能規定化」と呼んでいるが,火力発電設備においては,1997年に火力発電設備の技術基準(省令51号)の性能規定化が行われている。
 国の規格の性能規定化を行うと,具体的な設計方法を示すのは誰か,ということになるが,この場合に重要な役割を果たすのが学会等の中立機関である。特定 の団体や個人の利益に偏することなく,公正な立場で規格を作成する責務を担う必要がある。このような背景のもと,1997年に日本機械学会発電設備規格委 員会(以下,規格委員会と略)が発足した。火力関係では1999年に火力発電設備規格の初版を発行しており,その後も改訂版を2度出版するなど,現在でも 活発な活動を続けている。(詳細については発電設備規格委員会のホームページを参照されたい。URLはhttp ://www. jsme. or. jp/std/pgc/)
 以上,規格を取り巻く状況について触れたが,本稿でご紹介する配管減肉管理技術規格は,上で述べた「性能規定化」の流れを反映しており,規格策定の考え 方自体にも特徴があると言えると考えている。次節以降では,この点を含め,本規格の概要についてご紹介したい。

 

 

配管減肉現象と音響衝撃法による非破壊評価
   礒本 良則 広島大学大学院

Pipe Thinning Phenomenon and Its Non-Destructive Evaluation
Using an Acoustic Impact Method

Yoshinori ISOMOTO

Graduate School of Engineering, Hiroshima University

キーワード 配管減肉,エロージョン・コロージョン,FAC,

音響衝撃法,非破壊検査,モニタリング



1. はじめに
 近年,発電所や化学プラント設備において減肉現象を問わずトラブルは多く発生するようになってきた。どこに原因があるのであろうか。原因の一端に,高度 成長期に建設された設備を修理しながら現在でも使わざるを得ない経済的事情がある。しかし,経年劣化は必然的に起こる。リストラに端を発する設備管理・保 全,工務従事者や腐食防食に携わる研究者・技術者の人員削減や検査体制の縮小は生産コストの削減に必ずしも効果的とは言えない。設備の検査技術は向上して いるものの,検査コストも上昇するのが常である。配管の減肉現象は,対象とする材料と環境の組み合わせで複雑な様相を呈する未解明な事象でもある。本特集 のテーマが「火力発電設備の配管減肉管理と非破壊検査」ということで,配管の減肉現象と減肉の非破壊検査の一手法を解説してみたい。

 

3D超音波検査装置の配管減肉検査への適用
    唐沢 博一/笹山 隆生/片山 雅弘 (株)東芝   浜島 隆之 東芝電力検査サービス(株)

Application of 3D Ultrasonic Inspection Equipment to Wall Thinning Pipe
Hirokazu KARASAWA, Takao SASAYAMA and Masahiro KATAYAMA ToshibaCorporation
Takayuki HAMAJIMA Toshiba Power Systems Inspection Service Co. LTD.

キーワード 非破壊検査,信号処理,超音波可視化法,配管,開口合成, アレイ探触子



1. はじめに
 3D超音波検査装置は,3D開口合成法(3D - SAFT : Three-dimensional Synthetic Aperture Focusing Technique)を用いることで高精度の検査ができることを特長としている。更に,マトリックスアレイプローブ,リニアアレイプローブを用いて超音波 送受信を行うことで効率良いデータ収集を実現することができる。この特長を活かし,航空機(CFRP部品),自動車部品(アルミダイキャスト,スポット溶 接)や配管溶接部(ガス配管等)の検査に適用している。
 本書では,2004年8月に発生した美浜原子力発電所で発生した復水管の減肉事故以来,その重要性が高まっている配管減肉検査について,従来の単眼プ ローブによるポイント毎の検査と異なり減肉状況を連続的に効率良く計測することが期待できる3D超音波装置の説明と配管減肉検査への適用例を紹介する。

 

放射線画像処理法の概要と配管検査への適用
    加藤 博行 非破壊検査(株)

A Summary of Digital Radiography and Its Application to Pipe Inspection

Hiroyuki KATO Non-Destructive Inspection Co., Ltd.

キーワード 配管,腐食,画像処理,放射線,可視化,デジタルラジオグラフィ

1. はじめに
 従来のフィルム法による放射線透過検査手法では,透過写真(フィルム)の像質は種々の撮影条件により左右される。デジタルラジオグラフィは,一定の条件 範囲であれば画像処理を施すことにより,撮影後に像質を改善することを可能としたシステムである。近年,特に保温配管の腐食調査やスケール調査において は,従来のフィルム法にとってかわりデジタルラジオグラフィを用いた手法が大きなウェイトを占めるようになってきた。

 

火力発電設備に対する電位差法の応用における最近の進展
    浜田 晴一/早川 学  東京電力(株)

Recent Progress in the Practical Application of Potential Drop Technique
to the NDI of Thermal Power Plants

Seiichi HAMADA and Manabu HAYAKAWA Tokyo Electric Power Company

キーワード 電位差法,減肉,き裂,配管,検査,規格



1. はじめに
 現在,多くの火力発電所が運転時間10万時間を超える状況となっており,これらの経年設備の信頼性を維持しながら,安全に保守していくことが求められて いる。特に,ボイラ及びタービン設備の高温・高圧部分の構成要素の寿命診断は重要な問題であり,精密点検等において,各種の非破壊検査に基づく健全性確 認,設備診断及び寿命評価等が行われている1)。電位差法は非破壊検査手法の1つであり,火力発電用ボイラ大径管溶接部き裂や配管肉厚の検査及びモニタリ ング等に特に有効な非破壊検査法として,火力発電設備への幅広い実用化が期待されている。
 本稿では,電位差法の原理と適用事例及び日本非破壊検査協会の電場計測非破壊評価研究会におけるNDIS提案への取組み状況等を紹介する。

 

連載

非破壊検査の歴史」を始めるに際して−我が国における超音波探傷の歴史−

天才は別にして,私を含めた凡人が何か新たなことに挑戦しようとするときは,大抵,人の真似から始めているものです。実際に他人が行ったことをそのまま真 似をしなくても,本を読み,過去の資料を集めて基礎的な知識を身につけた上で,問題点を発見して,課題の解決や新たな創造をするわけで,まずは,先人の思 考過程を真似てそれを土台として新たな一歩を踏み出しているのです。「学ぶ」は,「まねぶ(学ぶ)」と同源で,「まねる(真似る)」とも同じ語源であると 言われます。これまでの非破壊検査の開発において先人が何を思い悩んで,それをどのように解決したかをじっくり学ぶことは,これからの非破壊検査を考える 上で重要であると思います。・・・

*編集委員長 廣瀬壮一

 

我が国における超音波探傷の歴史 [?]
    松山 宏 名誉会員(前湘菱電子(株)・元三菱電機(株))

The Histoy of Ultrasonic Testing in Japan[?]
Hiroshi MATSUYAMA 
Honorary Member (Formerly Shoryo Electronics Co./Mitsusbishi Electric Co.)
キーワード 非破壊検査, 超音波探傷検査,パルス法,反射法,超音波探傷装置,超音波厚さ計



まえがき
 超音波探傷の技術が実際の工業用非破壊検査に適用されてから,60年余りが経過した。この間の超音波探傷技術の発展は極めて顕著であり,設備の安全と信 頼を確保するために重要であるばかりではなく,工業製品の製造方法にも大きな影響を与え,製造原価の低減,量産化に貢献し,今日の我々の生活に大きな便益 を提供している。
 さて,今日のように,技術革新のスピードが早いと,技術的発展の経過を振り返って見る余裕などないかもしれないが,古人曰く,「温故知新」。このような ときこそ,今一度この技術分野の発展の経過を概観することは,次の発展のための知見を得る格好の材料となるかも知れない。
 特に,今日では到底考えられないような,機能が低い電子能動素子(真空管)を用いた超音波探傷器を開発し,それを用いて超音波探傷を普及させた当時の技 術者や研究者の努力の大変さは想像に難くない。彼らの努力の足跡を概観することも,超音波探傷の社会的貢献に関心を持つ者にとっては,有益であろう。
 今日,仮に工業用超音波探傷技術がなければ,今日の文明社会が実現し得なかったであろうと結論しても,大言壮語の謗りは免れるであろう。しかし,現実の 問題として,超音波探傷技術が何処に適用されているか,社会の一般の人々にはそれ程知られていないのではないかと思われる。今後の超音波探傷技術発展のた めにも,この歴史においては,できるだけ具体的適用例を記述するとともに,超音波探傷利用者側の要求の変遷についても触れる積りでいる。
 歴史であるから,過去の真実を述べなければならないことは当たり前であるが,知り得た過去の事実だけを羅列しただけでは面白くない。そこで,他の技術と の関係を述べ,また,いささかの推理によって事実の間を埋めてみる試みをした。最後に,超音波発展の過程において記すべき出来事は余りにも多い。これらを ひとつひとつ取り上げていたのでは,時系列的な記述が散漫となる恐れがあるし,第一誌面がそれを許さないであろう。今回の歴史は,超音波探傷器と探触子発 展の過程を軸に据えて,関連する事柄を記述することにした。このため,特殊技術については割愛してしまったがご了承願いたい。

 

 

論文

黒鉛材料の面状きずを対象とした超音波探傷法の検討
    佐藤 英一/志波 光晴/品川 議夫/井田 隆志/山添  智/佐藤 明良

Ultrasonic Testing Method of Detecting Plane Flaws in Graphite Materials Eiichi SATO*, Mitsuharu SHIWA**, Yoshio SHINAGAWA***,
Takashi IDA***, Satoshi YAMAZOE**** and Akiyoshi SATO****
Abstract
An ultrasonic inspection method for a graphite ingot was developed to detect internal plane flaws that orient in various directions; this is needed to perform quality assurance
of throat inserts of solid rocket motors. Some of the problems unique for this graphite inspection were solved. An ultrasonic beam in graphite shows uneven propagation behavior
both in an individual ingot and among them. The individual unevenness results in variation in echo heights of flat-bottomed holes, which can be compensated through
probe scanning by varying incident angles of the two independent axes. This probe scanning procedure is, thus, necessary to detect internal plane flaws that orient in various directions.
The latter unevenness can be compensated by measuring the wave velocity and attenuation coefficient in the test block itself before the inspection. A test block
which included artificial internal cracks was fabricated and was inspected by the developed method. It was, then, sliced into several thin blocks, and the sliced blocks were
inspected by the conventional ultrasonic testing method using a normal
Key Words Aerospace engineering, Solid rocket motor, Graphite, Non-destructive Inspection, Ultrasonic testing, Internal plane flaw



1. 緒言
 全段固体燃料の3段式ロケットである宇宙科学研究所(宇宙研:現 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部)のM-Vロケット4号機は,2000年2月10日に打ち上げられたが,第1段モーターの黒鉛製ノズルスロート インサートが破損脱落したために,衛星を軌道に投入することができなかった1)。不具合調査における,ノズルスロート インサートへの負荷(熱入力)の再評価と破壊統計論による強度解析の結果,不具合の最初の事象が発生した発射後4秒までに,健全な黒鉛製ノズルスロート インサートが破壊する可能性はきわめて小さく,黒鉛固有の内部欠陥あるいは組み立て加工時に生じた表面欠陥が破損の原因であると考えられた1)。
 この打上失敗後,宇宙研の観測ロケットS -310を対象として黒鉛製ノズルスロートインサートを安全に使用する研究開発が行われた2),3)。黒鉛製ノズルスロートインサートは,高い負荷がかか る重要部品に脆性材料を使用しているため,信頼性の確保が重要な課題であった。詳細な負荷評価と強度解析を行った結果,許容欠陥はφ 3mmの割れであり,負荷条件からあらゆる方位の面状欠陥を検査の対象としなければならないことが明らかになった。黒鉛材料の超音波探傷試験では,日本原 子力研究所高温工学試験研究炉(HTTR)炉心支持構造物を対象とした研究の先例がある4)−6)。このときは,円柱形状試験体の軸及び周方向におけるφ 5 mmの割れを対象に検査が行われた。近年では,航空機用のTiビレットの探傷を目的に,微小欠陥を対象とした同種の探傷の研究も行われている7),8)。 しかし,黒鉛材料に対してあらゆる方位のφ 3mmの面状欠陥を対象にした探傷はこれまでに報告されていない。

*(独)宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部(相模原市由野台3-1-1)Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency
  (財)発電設備技術検査協会 溶接・非破壊検査技術センター(横浜市 鶴見区弁天町14-1)NDE Center, Japan Power Engineering and Inspection Corporation
  (株)ジーネス(精華町光台1-7けいはんなプラザ)

 

     
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