機関誌「非破壊検査」バックナンバー 2020年5月度

巻頭言

「放射線による非破壊検査の歩み,その将来」特集号刊行にあたって
 釜田 敏光

 放射線による非破壊検査は,ヴィルヘルム・レントゲンが1895 年10 月にX 線を発見し,1896 年1 月23 日にX 線の透過像としてアルベルト・フォン・ケリカーの手のX 線写真が最初に手の構造を撮影したものとして知られている。
 このことは,生きたままの人体の中を見ることができ,他の方法では実現できない画期的なものであった。
 一方,1896 年にアンリ・ベクレルが,赤ウラン塩から放射するX 線と似た透過力を持つ光線,つまり放射線を発見し,マリ・キュリーは,1897 年に放射能と名付け,その現象を持つ元素を放射性元素とした。
 このように,X 線や放射性元素から放出される放射線によって,物質を透過し写真乾版などを感光させることが,まさに人体そして金属などの構造物の内部の状態を観察する手法として始まった。
 X 線は,比較的容易に発生が可能で,いち早く構造物の接合技術としてのリベット方式から溶接への動きの中で,溶接技術の開発のための非破壊検査による健全性の確認や,高張力鋼の溶接の健全性の検査のために用いられた。しかし,開発当初のX 線装置は,絶縁技術が乏しく,現在のX 線装置に比べ巨大な装置であった。そのため,X線装置の開発は,装置の小型化と高エネルギー化の歴史であった。また,放射性同位元素は,同じような放射線を発生するが,X線では必要な電源が不要であり,常に放射線を発生するというメリットがあった。
 放射性同位元素は,原子炉の実用化により,製造が可能となり,X 線装置に代わるものとして利用が開始された。もちろん,医療分野においては,治療目的の照射,トレーサー利用など,工業利用としては,大量線源による滅菌,計測用などであり,非破壊検査用としても利用されるようになった。
 さて,前置きが長くなったが,X 線や放射性同位元素が現在のように実用化がなされたのは,多くの研究・開発の苦労の賜物である。これらの業績は,一部は論文となり投稿されているが,多くは単なる紙ベースの資料として存在しているのみである。そこで,様々な放射線による非破壊検査として,研究・開発の記録や実際にその当時従事された方に,開発の苦労話,開発秘話,利用されてきた環境などを,ここに,解説として寄稿頂くことができた。
 今回の特集号では,放射線による非破壊検査において,その技術を利用するために必要な規格がどのように始まり,どのような社会情勢の中制定されたかなどを「非破壊試験・検査の始まり」として寄稿頂いた。次に,放射線による非破壊検査が多く適用されている原子力について,事故などの対応などを「原子力と非破壊試験・検査」として寄稿頂いた。次に,日本で多くのX 線装置の開発を行ってきた歴史について「創業者島津源蔵とエックス線の歴史について」として寄稿頂いた。次に,日本における非破壊検査用線源の製造について,線源の安定供給があってこそ,その利用が図られたといっても過言ではない,そのような背景を含め「線源の国産化」として寄稿頂いた。次に,核燃料再処理施設の建設に不可欠であった配管の溶接部に適用するために,新たな線源の開発が必要となった。これらの研究・開発及び現場適用について「γ 線源の国産化-Yb の製造開発と各種γ 線源の適用」として寄稿頂いた。次に,放射性同位元素を使用するために,そのエネルギーと放射能及び安全に使用できる装置が必要となった。それらの開発について「ガンマ線照射装置の開発」として寄稿頂いた。次に,撮像媒体としてアナログのフィルムからデジタル化への開発として「世界初のデジタル放射線画像システムの開発」として寄稿頂いた。次に,現在高精度化及び高速化が図られている「産業用X 線CT と高速度X 線透視のしくみと技術の変遷」として寄稿頂いた。最後に,今後の非破壊試験・検査の品質管理と品質保証の在り方について「非破壊試験・検査における放射線透過試験の今後に向けて」として寄稿頂いた。
 本特集によって,放射線による非破壊検査が多くの先人達の研究・開発の賜によって現在の姿があることが分かるであろう。X 線や放射性同位元素の使用については,法律で多くの規制が課されている。その中で安全に使用することにより,多くの社会資本の安全の確保及び延命化,より高度な製品の開発・製造が可能となる。放射線による非破壊検査の理解をより一層深めて頂き,読者にとって有意義なものとなることを期待したい。最後となりますが,本特集号にあたり,ご多忙のところ多大なご協力を頂きましたご執筆者の皆様方,ならびに編集にあたりましてご尽力頂きました皆様方に深く感謝申し上げます。

 

解説

放射線による非破壊検査の歩み,その将来

非破壊試験・検査の始まり
(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一

Beginning of Initiatives for Non-destructive Testing and Inspection
The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:非破壊検査法研究会,IAEA/RCA,ICNDT,キーワード APFNDT,WCNDT,ISO 9712

はじめに
 非破壊試験・検査の「始まり」に関しては,それらの各種活動において,例えば研究会の立ち上げ,JSNDI の設立,学術などに関しては国際的な動きとしてのWCNDT,APFNDT,FENDT を取り上げて,世界の「始まり」の状況を述べた。この中では,JSNDI の関わりについても触れている。
 また,非破壊試験・検査を取り扱う技術者の資格・認証について,国内のアプローチ,それに関しての国際動向を述べた。ここでは,ISO/TC 135 の国際幹事国としての日本も取り上げている。さらに,試験技術者のためには,教育訓練が不可欠で,そのための講習会にも触れた。
 一方,アジアの先進国としての日本(JSNDI)のアジア・太平洋地域でのIAEA/RCA 主催のトレーニングコースへの協力,支援も記述している。
 このように,「始まり」をテーマに,JSNDI で行ってきた主な項目を当協会で発行している50 年史を参考に記述するとともに,それ以降の状況について付け加えた。
 見えないものが見えるという魅力は1895 年にドイツのヴュルツブルグ大学のレントゲンによって実現し,レントゲンの発見が医学のみならず工業分野における非破壊試験が放射線の分野から始まり,大きく発展させたと言える。非破壊試験としては,放射線の原理を利用した放射線透過試験及びコンピューテッドトモグラフィ(CT)試験,音響の原理を利用した超音波探傷試験及びアコースティック・エミッション(AE)試験,電磁気学の原理を利用した磁気(探傷)試験及び渦電流試験,熱学的原理を利用したサーモグラフィ試験,漏洩の原理を用いた漏れ試験,光学あるいは色彩学の原理を利用した浸透探傷試験及び目視による外観(目視)試験など,このように何らかの物理現象の原理を利用した種々の方法が挙げられる。
 現場適用に当たっては,非破壊試験を例えば,表面,表層部あるいは内部のように試験・検査対象部位によって分類する。また,表面又は表層部におけるきずに関する情報(試験結果)を取得する方法としての外観(目視)試験,浸透探傷試験,磁気(探傷)試験及び渦電流試験そして内部におけるきずの情報(試験結果)に対しては放射線透過試験及び超音波探傷試験などに分類することができる。
 一方,試験・検査を適正に実施するためには,当時きずを検出する技術をもつ試験・検査技術者の必要性が求められた。学術的な面と現場において試験・検査する技術面の両方が試験・検査技術者に求められ,当初,非破壊試験・検査に関する規格についての研究発表的なことで非破壊試験が始められた集まりが,(社)日本非破壊検査協会(以下,JSNDI:The Japanese Society for Non-Destructive Inspection という)の発 足に繋がったのではないかと推測される。

 

原子力と非破壊試験・検査
(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一

Non-destructive Testing and Inspection in the Nuclear Industry
The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:原子炉,非破壊試験,もんじゅ,配管溶接,圧力容器,応力腐食

はじめに
 原子力分野における非破壊検査は施設の安全確保の一手段として行われている。
 原子炉を考えてみると,商業炉としての軽水炉には沸騰水型原子炉と加圧水型原子炉があり,いずれも経済産業省の所管である。一方,試験研究炉には国内において,材料試験炉(JMTR),高速増殖炉(常陽),新型転換炉(ふげん),高速増殖原型炉(もんじゅ)があり文部科学省の管轄である。
 国内で商業炉には,沸騰水型及び加圧水型原子炉が主流で,発電用原子力機器の容器などの継手の区分は図1 に参考として示すように,ABC 及びD の4 区分となっており,JSME SNB1-2012 第4 章用語集より,区分A は,発電用原子力機器の容器の胴,管又は管台の長手継手及び容器の胴,管又は管台に半球形鏡板を取り付ける継手,区分B は発電用原子力機器の容器の胴,管又は管台周方向の継手及び容器の胴,管又は管台に半球形鏡板以外の鏡板を取り付ける継手(2-1 継手区分A の図 参照),区分C は発電用原子力機器の容器の胴,管又は管台にフランジ,平板又は管板を取り付ける継手(2-1 継手区分A の図 参照) 及び 区分D は発電用原子力機器の容器の胴,管,鏡板又は平板に管台を取り付ける継手(2-1 継手区分A の図 参照)となっている1)。
 原子力分野における非破壊検査において,発電用原子力設備に適用される放射線透過試験に絞って述べる。
 製造検査に関し,材料検査においては,発電用原子力設備規格 設計・建設規格(JSME S NC1)及び日本産業(工業)規格JIS G 0581:1999「鋳鋼品の放射線透過試験方法」を,溶接検査においては,発電用原子力設備規格 溶接規格(JSMES NB1)及び日本産業(工業)規格JIS Z 3104:1999 附属書(きずの像の分類)を適用している。また,クラス2 ~クラス4の機器でクラス4 については耐圧代替試験が必要な継手のみに適用することとなっている。
 一方,定期検査に関しては,発電用原子力設備規格 維持規格(JSME S NA1)が適用されている1)−5)。
 ここで,原子力機器の機種区分によって,RT を適用する場合について表1 に示す。
 なお,材料の非破壊検査についてはJSME S NC1(設計・建設規格)の解説表GTN-1000-1 材料の非破壊試験の要求を参照。
 溶接部の検査での放射線透過試験での適用規格はJIS Z3104:1995 がベースになっている。この中で,原子力機器への適用における幾つかの留意点を示す。
1)増感紙の適用において金属箔増感紙は原子力機器のすべてに適用可能であり,金属蛍光増感紙は原子力機器クラス1 機器以外に適用可能であるが,蛍光増感紙は,原子力機器では適用不可である。
2)撮影の原則は,試験部を透過する厚さが最小となる方向に放射線源を置き,かつ,単壁撮影とすること(継手区分B,継手区分C 又は継手区分D の溶接部の全周を同時に撮影する場合には,放射線源をその中心軸上に置くこと)。ただし,継手区分B,継手区分C 又は継手区分Dの溶接部であって,単壁撮影が困難な場合は,二重壁撮影とすることができる。
3)管溶接継手にあっては管の外径が90 mm を超える場合撮影は,二重壁片面撮影とし,像が重ならないように照射方向は等間隔に4回以上で,かつ,フィルム側の溶接部の観察とする。一方,管の外径が90 mm 以下の場合は撮影は,二重壁両面撮影とし,像が重ならないように互いに90 度離れた方向から2 回以上行うこと。ただし,像が重なる場合は,等間隔に3 回以上行わなければならない(JIS Z3104:1995 では像質によって板厚方向と割れとの照射角度を約10度と約14度として,撮影回数を求めている)。
4)配置でクラス1 容器,クラス1 配管の場合,JIS Z 3104 の透過写真の像質のA を要求している。すなわち,透過度計(透過度計をフィルム側に置く場合は,溶接部の線源側の表面)とフィルムとの間の距離の5 倍に線源寸法(mmを単位とした値)を乗じた値又は試験部の有効長さの3倍のうち,いずれか大きい方に等しい距離以上であること。ただし,機器等の構造上これによることが著しく困難である場合は,この限りでない。
5)クラスMC 容器,クラス2 容器,クラス3 容器,クラス3 相当容器,クラス2 配管,クラス3 配管,クラス3 相当管及びクラス4 配管の場合はJIS Z 3104 の透過写真の像質のA を要求している。すなわち,透過度計(透過度計をフィルム側に置く場合は,溶接部の線源側の表面)とフィルムとの間の距離の2.5 倍に線源寸法(mm を単位とした値)を乗じた値又は試験部の有効長さの2 倍のうち,いずれか大きい方に等しい距離以上であること。ただし,機器等の構造上これによることが著しく困難である場合は,この限りでない。
6)材厚と透過度計については,溶接継手の余盛高さを母材の厚さに加えた材厚はJIS Z 3104 では規定されていない。透過度計については,原子力機器では有孔形透過度計の使用が規定されているが,材厚の区分によって透過度計(厚さ,呼び番号,基準穴)の区分が決められている。
7)JIS Z 3104 の像の分類に関係して,判定基準については,JIS Z 3104(1995)の附属書4「透過写真によるきずの像の分類方法」の1類であることと規定しているが,「ただし」書きの中で,「クラスMC 容器,クラス2 容器,クラス3容器,クラス3 相当容器,クラス2 配管,クラス3 配管,クラス3 相当管及びクラス4 配管の場合にあっては,第1 種及び第4 種のきずについては,試験視野を3 倍に拡大してきず点数を求め,その3 分の1 の値をきず点数とすることができる」という解釈が規定されている。これはJIS Z 3104:1995 に規定されていない。
 以上は,発電用原子力設備に関する製造及び定期検査の概要を述べたが,次に,筆者がこれまで,原子力に関係した非破壊試験・検査において,携わったトラブルなどに関する事例のいくつかを紹介する。

 

創業者島津源蔵とエックス線の歴史について
(株)島津製作所 夏原 正仁

The History of X-ray with the Founder Genzo Shimazu
Shimadzu Corporation Masahito NATSUHARA

キーワード:放射線試験,エックス線,非破壊試験,非破壊検査,放射線

はじめに
 島津製作所*1 はエックス線照射に成功して以来,脈々とエックス線をはじめとする放射線応用機器の開発を続けてきた。本稿では,遠大な社史を紐解き,島津製作所の放射線事業の歩みを振り返りたい。
 島津製作所の創業は1875 年(明治8 年)3 月31 日で,京都醒ヶ井魚棚で仏具製造をしていた島津清兵衛の次男,島津源蔵が理化学器械の製造を始めたことから始まる。創業地の京都木屋町二条周辺には,当時,西洋の技術を導入した多数の産業施設が設立されており,産業技術導入の拠点であった舎密局(せいみきょく)との繋がりが深かった源蔵のもとには,外国製器械の修理や整備の仕事が舞い込むようになっていた。こうした仕事を通じ,源蔵は外国製器械の構造や理論を学び取り,自ら理化学器械を製造して教育現場に普及させることを決意した。

 

線源の国産化
(株)千代田テクノル 山本 武夫

Domestic Production of Radioisotopes
Chiyoda Technol Corporation Takeo YAMAMOTO

キーワード:線源の国産化,RI ことはじめ,線源の国産化と線源規格,線源の新しい利用,線源の製造,RI の製造・頒布,RI の民営化

RI ことはじめ
 1956 年6 月,特殊法人日本原子力研究所(現 (国研)日本原子力研究開発機構,以下「原研」という)が発足し,当初,原子力エネルギー利用の推進と並んでラジオアイソトープ(以下「RI」という)の利用推進は,原子力エネルギー開発と並ぶ重要な推進目標であった。
 原研のRI 国産化の目的は,当初,輸入困難な短寿命RI を国産化することにあった。国産化以前,国内で利用される学術研究用RI や線源などは,(社)日本放射性同位元素協会(現(公社)日本アイソトープ協会,以下「RI 協会」という)が,海外から調達し利用者に供給していた。
 1957 年にJRR-1 を利用して,国内で初めて,原子炉によるRI 製造実験が始まり,1961 年には,原研東海研究所にRI 試験製造工場(図1)が完成して,24Na など短寿命RI の試験製造が始まった。
 1962 年,RI 頒布事業の認可(科学技術庁)を受けて,短寿命の24Na,42K,64Cu など6 核種の精製RI が,RI 協会を通じて,初めて有償で頒布された。
 当時,RI 輸送は,毎週1 回(水曜日)原研・東海研究所から東京都文京区駒込のRI 協会まで放射性物質輸送専用の自動車便で輸送され,短寿命の24Na(半減期15 時間)などは,時間との勝負で,利用者はRI 協会で待機して引き渡された時代でもあった(図2)。
 1964 年に,東海研究所に本格的なRI 製造棟が完成し,RI製造の要であるJRR-2 の共同利用運転が始まり,核医学診断に利用されることが多かった198Au や32P,35S の試験製造が始まった。
 1966 年にRI 生産を目的に建設された国産1 号炉のJRR-3 が,本格運転に入り,ようやく試験製造から製品製造に進み,RI国産化の時期が近づいてきた。

 

γ線源の国産化−Yb の製造開発と各種γ線源の適用
(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一

Domestic Production of Gamma-ray Source-Yb Production Development and
Application of Various Gamma-ray Sources

The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:γ線,Yb 線源,Se線源,線源製造,試験・研究炉,小口径配管

はじめに
 青森県六ヶ所村に,1994 年に建設が開始された核燃料再処理施設には,当時かなりの量の小口径薄肉配管(外径がほぼ50 mm)の継手が溶接される構造物となっていた。これらの配管溶接継手の検査には,放射線透過試験が用いられた。しかし,施設は配管と配管の間隔も少なく,殆んど狭隘状態の上に,配管の継手数は膨大で,X 線装置のみの適用は不可能との点から,X 線装置に代わってのγ 線源の適用が検討された。しかし,国内でのγ 線源の適用は192Ir と60Co の両線源が主流で,他の75Se,170Tm の現場適用はされていなかった。そのため,新たなγ 線源の製造開発及びその適用試験が求められた。そこで,小口径薄肉配管の溶接部に対する放射線透過試験に有用な低エネルギーγ 線源の開発依頼が日本原子力研究所,大洗研究所に所属していた筆者にあり,169 Yb 線源を候補としての線源製造国産化の要請に応えることとなった。

 

ガンマ線照射装置の開発
ポニー工業(株) 松田  淳

Development of Gamma Ray Irradiation Equipment
Pony Industry Co., Ltd. Atsushi MATSUDA

キーワード:放射線,放射性同位元素(RI),非破壊検査,遮蔽,線源容器

はじめに
 放射線利用による非破壊検査は,1950 年頃にX線装置によるボイラ等の圧力容器の溶接部,船舶の溶接部などの検査から始まった。しかし,初期のX線装置は,絶縁材料の技術に乏しく,とてもポータブルとは言えない大きさであった。また,エネルギーも最大300 kVp であったが放射線発生効率も今に比べて劣っており,実効エネルギーは今の約1/3 ~ 1/2 であった。そのため,厚鋼板の溶接部や,厚い鋳物などへの適用は困難であった。
 1955 年頃よりの高度成長期には非破壊検査の必要性が論じられ,造船,橋梁,種々のプラントでは,対象とする構造物に対して検出精度を満足し,小型軽量,電源等の外部インフラを必要としない放射線照射装置の開発が急務であった。また,国内では原子炉(実験炉,研究炉)が稼働を始め,人工放射性同位元素の製造が可能となったことから,比較的安価で安定して供給できる192Ir 線源が注目された。また,照射装置は,貯蔵,照射,輸送の機能を有することが要求され,十分な遮蔽性能,輸送時の振動等に耐えうる機械的強度及び192Ir 線源を安全に取り扱うことが可能な構造が必要不可欠であった。
 様々な被曝事故の経験から,それらを未然に防ぐために,1971 年に科学技術庁(現 原子力規制委員会)より非破壊検査業界に対してガンマ線照射装置の自主規制の要請があり,線源の脱落を防止する装置,又は脱落防止機能を二重に備える構造にすることの通知を受けた。さらに,使用者の安全を守るため,1975 年6 月26 日付労働省告示52 号「ガンマ線照射装置構造規格」が公布され,1975 年8 月1 日付電離放射線障害防止規則(労働省令第20 号)の中で,放射線源の取り出し等の規制,装置の定期自主検査,放射線源の点検等が規定された。
 これらの規制に対応するよう照射装置は改善改良を積み重ねられた。
 照射装置開発の歴史的な背景と192Ir 線源用照射装置の開発,安全対策等について以下に記述する。

 

世界初のデジタル放射線画像システムの開発
富士フイルムテクノプロダクツ(株) 細井 雄一

Development of the World's First Digital Radiation Imaging System
FUJIFILM Techno Products Co., Ltd. Yuichi HOSOI

キーワード:放射線,放射線検出器,デジタルラジオグラフィ,画像処理,レーザ,フィルム

はじめに
 1981 年6 月ベルギーの国際放射線学会ICR(International Congress of Radiology)で,初めてコンピューテッドラジオグラフィ(Computed Radiography,以下,CR という)が実用的なX 線デジタルシステムとして,発表された。それは従来のアナログ写真技術を乗り越えたい情熱を持ったメンバーによる7 年の研究開発の結果であり,写真フィルムメーカが銀の高騰に追い込まれ,デジタル技術への幕開けを背景に挑戦した結果であった(図1,2)。
 当時は運悪く石油ショック,銀ショックがあり,銀を多く使ったX 線写真はかなり将来に不安があった。さらに,1970年代に入ってからMRI(1971 年),X 線CT(1972 年)などのデジタル技術を用いた医療診断画像が立て続けに登場していたことも刺激になっていた。
 ここでは医療用として開発された歴史を中心に話を進めるが,CR は初期の開発意図を超えて,非破壊検査分野,バイオ分野のオートラジオグラフィや透過型電子顕微鏡分野,さらには中性子線イメージング分野など広く応用されていった。それはX 線フィルムに代わるイメージングプレート(以下,IP という)に使われた輝尽性蛍光体のユニークな特性である高感度,高い信号対ノイズの比(以下,SN 比),蓄積性,繰り返し利用できる特性による。それらは後で解説したい。

 

産業用X 線CT と高速度X 線透視のしくみと技術の変遷
東芝IT コントロールシステム(株) 富澤 雅美  原  拓生

Mechanism and Technical Transition of Industrial X-ray CT
and High Speed X-ray Fluoroscopy

Toshiba IT & Control Systems Corporation Masami TOMIZAWA and Takumi HARA

キーワード:X 線CT,高速度X 線透視,変遷,検査・測定,デジタルエンジニアリング

はじめに
 本稿では,X 線による非破壊検査として,産業用X 線CTと高速度X 線透視のそれぞれについて,そのしくみと検査・計測できること,適用例,技術の変遷,および,両者を連携した適用例を解説したい。
 X 線は,1895 年にドイツのレントゲン博士によって発見され(この業績によって1901 年に第1 回ノーベル物理学賞を受賞),人体の内部が透けて見えることが分かって以来,医用として普及した。産業用では,医用で培われた技術を応用しつつ独自の発展も遂げながら,主に非破壊検査に利用されている。
 X 線による非破壊検査は,透過したX 線像を得る透視検査(透過検査とも呼ばれる)が基本であるが,X 線CT(Computed Tomography の略称,コンピュータ断層撮影)では,透視像を多くの方向から収集し,計算機によって画像再構成という演算を施して断層像を得る。その断層像を積層した立体的なCT 像から,形状,および,構成元素・密度などに関する情報が得られる。鋳物部品,電気・電子部品,実装基板など様々な対象に対して,その構造,空孔・空隙,異物,接合状態などの非破壊検査に利用されている。
 産業用X 線CT は,X 線の透過能力と検出効率の向上,空間分解能の向上,検査時間の短縮,検査対象の大型化対応,アーチファクトと呼ばれる偽像の対策など,医用と同様の課題も含めながら産業用独自の発展も遂げている。さらには,コーンビームCT と呼ばれる技術によって三次元(3D)CT 像を比較的に短時間で得られるようになり,また,近年,ハードウェアとソフトウェアの進歩によってCT 像の画質と精度が向上しつつある。そのため,産業用X 線CT は,「検査用」としてだけでなく「計測用」としての利用が増しつつあり,「計測用X 線CT(Dimensional X-ray CT,DXCT)」と呼ばれる寸法測定精度を保証する機種がある1)−3)。DXCT の計測精度評価法に関してISO 10360-11 としての国際規格化が審議されている4)−6)。そして,検査対象の表面と内部を計測することができる「3D スキャナ」として,3D CAD,3D プリンタなどと組み合わせてデジタルエンジニアリングへの活用も増えている7)−9)。また,製造品のインライン検査において透視像では検査・測定が難しい対象に対してインライン検査に対応するCT が製品化されている10)− 12)。
 一方,高速度X 線透視は,一般の透視(毎秒30 コマ=30 fps 程度)より速いフレームレート(数百~数千fps,ときには数万fps)で透視像が得られ,ものの内部の動き,一瞬の挙動などを観察・解析することができ,近年,そのニーズが増加している。高速度X 線透視中に,検査対象の外観像,電圧・電流・加速度などの物理量を同時に収集し,透視像(と外観像)による画像情報と物理量を照合して解析することによって,より多くの知見が得られ,現象の解明などが一層確かなものとなり得る。このような実動作状態での観察・計測は,現在ではオペランド観察・計測とも呼ばれる。
 さらに,本稿では,リチウムイオン電池の釘刺し試験において,産業用X 線CT と高速度X 線透視を連携して用いた例も紹介したい。
 以後,特に断らない限り,X 線CT を「CT」と呼び,産業用X 線CT を表す。また,「CT 像」はX 線CT 像を,「CT 値」は「産業用CT 値」をそれぞれ表す。

 

非破壊試験・検査における放射線透過試験の今後に向けて
(一社)日本非破壊検査協会 顧問 大岡 紀一

Toward the Future of Radiographic Testing in Non-destructive
Testing and Inspection

The Japanese Society for Non-Destructive Inspection Norikazu OOKA

キーワード:フィルムラジオグラフィ(F-RT),デジタルラジオグラフィ(D-RT),技能試験,不確かさ,イメージングプレート(IP),JIS Z 3110

はじめに
 非破壊試験・検査(以下NDT という)は国内において1952 年に非破壊検査法研究会として発足し,その3 年後に(社)日本非破壊検査協会となって以来,学術面では各種分科会,研究委員会,講演大会,シンポジウムなどを実施して進捗してきた。一方,1987 年には世界的な規模で品質に対する考え方を共通化するように品質管理と品質保証を統合してのISO 9000 シリーズが制定された。ここで,NDT は特殊工程として扱われ,事後の検査では,その結果を十分検証できない,あるいは製造の欠陥が製品使用の段階でしか現れないような工程を意味している1)。NDT と最も関係の深い溶接においても,JIS Q 9001:2000 における特殊工程に対する要求事項は「事後の製品の検査・試験では工程の結果が十分に検証できない場合,また,例えば,工程の欠陥が製品の使用段階でしか判明しないような場合,規定要求事項を満たすことを確実にするために連続的監視及び/又は文書化された手順を遵守することが要求される工程」であり,製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認が要求されている2)。その後の改正においても,それら品質マネジメントの考え方は継承されていると考えている。
 したがって,NDT は構造物などの健全性を信頼して実証できる能力を有していることから,品質を保証して安全を確保して社会に貢献する手段となっていると言える。
 放射線透過試験については過去から現在までで各種装置の開発,諸規格の制定・改正による現場適用,教育・訓練のための講習会,資格・認証における国際対応など種々の課題が挙げられるが,近年大きな課題の一つとして,デジタルラジオグラフィ(以下D-RT という)の台頭が挙げられる。
 現在,一般的に用いられている放射線透過試験としてのフィルムラジオグラフィ(以下F-RT という)による撮影は,X 線フィルムが1936 年に初めて直接撮影用X 線フィルムとして富士写真フイルムから発売されて,実現している3)。
 その後,1980 年代に至って富士写真フイルムはX 線画像のデジタルメディアとしての輝尽性蛍光体イメージングプレート(以下IP という)と1983 年にはFCR(Fuji Computed Radiography)を国産技術で製作して,フィルムに代わる対応装置による画期的な撮影技術を発表した。この装置が国内外において各種産業分野で実用化されてきている。
 以下に,NDT に関しての将来へのアプローチとして,普及,拡大しつつあるD-RT の技術,試験所(例えば,メーカの検査部門あるいは,検査を業とする検査会社など)としての技術の維持及び開発のために必要とされる技能試験の実施について,さらにNDT の技術向上のためのきずの不確かさについて述べる。

 

     
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