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昨今,日本政府も積極的にIoT(Internet of Things)を取り込み,戦略的な産業競争力の強化に取り組んでいます。2016 年1 月に閣議決定された同年度からの5 年間の科学技術政策の基本指針「第5期科学技術基本計画」の中で,Society 5.0 という言葉が使われています。政府の総合科学技術・イノベーション会議で検討されたものですが,独国のインダストリー4.0,米国の先進製造パートナーシップ,中国の中国製造2025 など,モノづくりの世界に官民協力でICT(Information & Communication Technology:情報通信技術)を最大限に活用する取り組みが打ち出されており,それに対抗するものとして使われたと想像できます。日本経済新聞の記事によればSociety 5.0 とは,「ロボットや新素材などを軸にした超スマート社会であり,仮想空間(cyber-space)と物理空間(physical-space:現実世界)の高度な融合によって地域や年齢,性別,言語などによる格差を解消し,多様なニーズに応える人間中心の社会を指す。」とあります。産官学連携や国民参加,基盤技術の強化を通じて,知識型社会を支えるビッグデータ活用のプラットフォームを構築する狙いなども基本方針の本文中には記載されています。また産業競争力強化法により,プログラムマネージャー(PM)の下で柔軟な運営を可能とする革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)が創設されていますが,東北大学大学院の田所先生がImPACT-TRC(タフ・ロボティクス・チャレンジ)をPM として取り進められており,本特集号で災害ロボティクスの題で解説をいただいています。
経済産業省では,スマート保安と称してスーパー認定事業者制度を進めており,狙いは技術の発展と展開により,安全性と生産性を向上させるというものです。高経年化が進んでいる日本の生産設備の保安安全にIoT を用いた高度な保安対策を導入すれば,事業所の重大事故の軽減に貢献することになります。スーパー認定事業者に認定されれば自主検査のみで対応できる期間が従来の5 年から7 年に延長されるなどのインセンティブに加え,設備が発するさまざまなデータを読み取れるようになると考えられるIoT への取り組みは,保安の確保に大いに役立つと予想されます。
保守検査の分野でもICT の発達を背景として,IoT,ビッグデータ解析,AI(Artificial Intelligence)などへの取り組みが進められています。保守検査部門が担当した前回特集号では保守検査の最前線と題して,産業と社会インフラにおいて検討されている,または実施され始めている情報通信技術に関する解説と適用例をその分野で活躍されている方々に紹介いただきました。今回の特集号では,ICT の著しい進化を基に従来では不可能であった処理能力の実現を背景とした3D レーザスキャナの光3 次元計測技術やロボット,さらにはX 線を使った新しい検査技術に的を当て,産業と社会インフラのフィールドで,現場に適用,または展開が図られつつある新検査技術についての解説を専門家の方々にお願い致しました。保守検査部門では2014 年6 月に現場指向X 線残留応力測定法研究委員会を立ち上げて積極的に活動してきておりその状況も報告します。さらに今回は,(一社)日本非破壊検査協会の研究会として,2016 年7 月に発足した光3 次元計測研究会が活動を開始しており,その現況についても紹介いただきます。今回の特集号が,読者の方々の分野や会社で少しでもお役に立てれば幸甚です。なお,末筆ながら大変お忙しい最中であるにもかかわらず本特集号に執筆いただいた方々に誌面を借りてお礼を申し上げます。
Disaster Robotics
Tohoku University Satoshi TADOKORO
キーワード:ロボット,災害対応,災害予防,地上走行ロボット,索状(ヘビ型)ロボット
はじめに
頻発する自然災害や人為災害において,ロボットは情報収集,災害対策の切り札である。災害発生直後の緊急対応(人命救助など)はもとより,災害復旧(工事など)や,災害予防(点検など)において,人間では困難なことを可能にし,人間の危険を防止し,コストを下げ,効率を向上させることに寄与すると考えられている。
プラント点検は,その中でも近い将来の実用化が最も見込まれる分野の一つであり,ロボットは非破壊検査業務の効率化,迅速化を進めるためのツールとして期待されている。
表1 に示すようにロボットには様々な種類があり,それぞれ異なった適用場面や特徴を有している1)。
本稿では,クローラ型・車輪型地上走行ロボット,狭所進入索状(ヘビ型)ロボットを中心として,災害ロボティクスとその適用の一端を紹介する。
Report on Activities in Committee of On-site Oriented X-ray Residual Stress Measurement
Kanazawa University Toshihiko SASAKI
Japan Power Engineering and Inspection Corporation Ryoji MIZUNO
Industrial Research Institute of Ishikawa Shigeki TAKAGO
X-ray Residual Stress Measurement Center Yoshihisa MISHIMA
キーワード: X 線,残留応力,回折環,二次元検出器,cosα法
はじめに
X 線応力測定法は,1920 年代に測定の可能性が見いだされたとされる比較的古い歴史を有する技術である。初期には写真フィルムが使用されていたが,1960 年代以降は回折装置を用いた方法が普及し現在の世界標準法になっている。一方,本方法の課題点として,測定時間の短縮(現状は1 回の測定時間10 ~20 分程度),装置の小型化(実機適用)などが残されていたが,1980 年代に開発されたイメージングプレート(以下,IP)を利用したX 線応力測定の基礎研究を基礎とした新技術の装置化の提案を契機として,2012 年に世界初のcosα 法式X 線応力測定装置がわが国の企業から市販化された。本装置は,測定時間,装置重量,装置占有スペースが従来装置の1/10 程度以下を実現し,現場での実機適用と従来と比べて高速なX 線応力測定が可能になった。2014 年までに別の国内2 社からも類似の同型機が公開されているが,これまでのところ,まだ海外製の装置は出ていない。なお,測定の高速化や装置の小型化を実現できた要因は,測定サンプルから発生する回折X 線(回折環,デバイリング)を二次元計測して有効に利用できるようになったためである。また,二次元計測技術と共に,回折環から得られるX 線データを有効に解析可能な測定理論(cosα 法1)−4))の果たす役割も重要である。この二次元計測技術(IP)及びcosα 法原理共にわが国の技術である点も本技術の大きな特徴といえる。
こうした,この4,5 年の間に進んだ可搬式で高速測定可能な新しいX 線応力測定技術の普及促進を目標として,2014 年4 月に日本非破壊検査協会の保守検査部門の下に現場指向X 線残留応力測定法研究委員会を立ち上げて活動をスタートさせてきた。当初のメンバー数は17 名であったが,現在はメンバー数54 名(部品製造メーカ23 名,検査関係8 名,X 線装置メーカ7 名,プラント2 名,研究機関5 名,大学9 名)の体制となっている。これまでに9 回の研究委員会を実施してきた(2016 年10 月末時点)。以下では,本研究委員会の活動方針,これまでの活動状況について報告する。
Application of the Three Dimensional Measurement Technique for Maintenance
Japan Industrial Testing Co., Ltd. Yuji IMAI, Tomoharu UCHIHASHI and Toshishige DEUSHI
キーワード: 形状測定,保守,腐食
はじめに
近年,老朽化に伴いプラントのメンテナンスが課題となっており,光3 次元計測技術を用いたプラント保守検査も需要が高まっている。
弊社は非破壊検査会社として,石油・石化プラントの保守検査業務が主要な業務であり,3 次元計測技術のメンテナンス現場への適用についても以前より実施している。測量器は可搬性を有しているが,揺れのない安定した場所や,対象物までの間にレーザ光を遮る障害物がないこと等,本体の設置条件により,適用箇所が制限されている。現状では困難であった場所への計測が適用できるように,非接触式3 次元レーザスキャナを新しく導入した。ここでは,従来からの3 次元計測の事例と新しい装置による事例をいくつか述べ,現場適用への検討結果を紹介する。
Requirements from the Maintenance Field and Verification of Accuracy of the 3D
Measurement Tool in Non-Destructive Testing
SEIKOWAVE K.K. Minoru NIIMURA
キーワード: 非破壊試験,腐食,形状測定,標準試験片
はじめに
工業界において寸法測定のための光学式(非接触式)3次元座標測定機が活用され始めてから,すでに20 年以上が経過する1)。2009 年には,日本工業規格として JIS B 7441「非接触座標測定機の受入検査及び定期検査」規格が制定され,更に,2015 年,JIS B 7440-8:2015 として改訂された2)。この規格は長さ測定における座標測定機の性能が,製造業者の仕様に適合するかどうかを検証するための受入検査について規定している。更に,使用者が定期的に検証するための定期検査についても規定している。この規格で規定する受入検査及び定期検査は,光学式距離センサ付きの直交形座標測定機に適用されるため,この規格を,光軸と直行する方向に感度を持つ,本稿で取り上げる画像測定機(いわゆるパターン投影方式3次元座標測定機)等の,非直交形座標測定機に適用する場合には,JIS B 7440-8 附属書 JB を参照する必要がある。
このようにJIS 規格では非直交形座標系測定機の規格に関してはまだ完成の段階には達していない。更に,計測現場で使えるような簡易的な検査方法も確立しておらず,本稿ではこれらの現場の要請なども含めて論述する。
Development of Piping Inspection Robots and On-site Application of High-performance X-ray Inspection Technology
Mitsubishi Chemical Corporation Itaru MIURA and Hiroaki NAGAI
キーワード: 非破壊検査,工業用 X線装置,放射線検出器,配管,圧力容器,腐食
はじめに
プラントの安定運転を妨げる事象を予測・防止することによって「超安定運転」を実現するために行っている保全技術開発における新検査技術の開発と適用の現状を紹介する。
Stress Measurement of Aluminum Alloy Using Fourier Analysis of X-ray Diffraction Rings
Naoya KAMURA, Toshiyuki MIYAZAKI and Toshihiko SASAKI
Abstract
In this study, X-ray stress measurement of aluminum alloy A2017 using the Fourier analysis proposed by Miyazaki et al. was carried out. The validity of measured stresses was verified by a four point bending test. Coarsening grains existed in the specimen and spotty
diffraction rings were obtained, nevertheless the Fourier analysis is applicable for such material. The stresses measured by Fourieranalysis were in good agreement with both mechanical ones and the value obtained by the cosα method. For the single X-ray incident,the measured stress obtained from the 311 diffraction plane particularly showed such correspondence to applied stress as compared with the 222 diffraction plane. The reliability of stress measurement was improved by using the in-plane averaging, and it was effective for every diffraction plane. The effect of enlargement of the X-ray irradiation area saturates, thus the areas to average should be selected appropriately in order to measure the stresses efficiently.
キーワード:X-ray diffraction, Key Words Stress measurement, Fourier analysis method, Aluminum alloy, Coarse grained material
緒言
X 線応力測定法の1 つであるsin2ψ 法は,測定対象が等方均質であること,平面応力状態であること,深さ方向に急激な応力勾配がないことを前提とした測定理論である1)。鉄鋼製の機械部品のX 線応力測定では,溶接部の測定などを除けば材料の等方均質性が問題となることは少ない。しかしながら,圧延等によって集合組織が発達しやすい材料や粗大結晶粒を形成しやすい材料は等方均質性を有しないことがあり,そもそも0 次元や1 次元検出器方式のX 線応力測定装置では回折X 線を得ること自体が困難な場合がある。一方,2 次元検出器方式においては上記のような材料の場合でも,斑点状あるいは不均一な環状の回折X 線が得られる。
2 次元検出器方式のX 線応力測定法には,平ら2)が提案し,その後イメージングプレートの適用3)−7)が図られてきたcosα法,He ら8)が提案した2D 法がある。Miyazaki ら9),10)はcosα 法をフーリエ級数で表し,X 線回折環(以下,回折環)が不完全な場合でも応力測定が可能となる解析法(以下,フーリエ解析法)を提案した。
宮崎らは鋼に対してフーリエ解析法を適用し,その有効性を確認しているが,本研究ではアルミニウム合金に対する適用可能性を検討した。アルミニウム合金は実用金属材料として広範囲に使用されており,新幹線車両や航空機などの大型構造物や,自動車ボディへの適用も進んでいる。これら構造物の強度評価をする際には使用時に作用する応力のほか,残留応力も考慮に入れなければならない。X 線応力測定法は非破壊・非接触で残留応力を測定できる手法だが,アルミニウム合金は粗大結晶粒や集合組織が発生しやすく,また構造物の狭隘部を測定する際には回折環全周が取得できないといった問題が発生し得る。本研究は,上記のような測定対象に対してフーリエ解析法を適用した場合に得られる応力値の妥当性を検証することを目的としている。本稿では,粗大結晶粒を有するアルミニウム合金の平板に対してフーリエ解析法を適用した結果を報告する。